ライバルが協力し合うことの利点

 ブロックチェーンを活用したネットワークの利点は、ライバル企業が共有のプラットフォーム上で協力し合い、自社の機密情報を守りつつ、医薬品の安全性を向上させられることだ。

 医療物資のサプライチェーンに特化した「メディレッジャー・ネットワーク」というコンソーシアムは、それを実践しようとしている。この取り組みには、ギリアド・サイエンシズ、ファイザー、アムジェン、ジェネンテック、アメリソースバーゲン、マッカーソンなど、有力な製薬・医薬品卸企業が参加している。ネットワークの基盤を成すテクノロジーを提供するのは、クロニクルドという新興企業である。

 メディレッジャーが最初に実用化しようとしているのは、返品されてきた医薬品が本物かどうかという検証をしやすくするシステムだ。

 返品の検証は、この業界では日常的に行われている業務だが、実は簡単な仕事ではない。米国医薬品卸売業協会(HDA)によれば、販売可能な医薬品の返品数は年間約6000万ユニットに上る。それらを再販売する前に本物かどうかを確認する作業は、卸売業者が担わなくてはならない。

 そのために、メーカーと連絡を取って個々の製品のシリアルナンバーを調べる必要がある。この作業には、ときに48時間もの時間を要する。

 その点、ブロックチェーンを活用すれば、卸売業者はバーコードスキャナーを使って、同じ業務を1秒も要せずに終えられる。これにより、返品された医薬品を素早く流通経路に送り返すことが可能になる。

 一方、メーカーにとっても、自社のデータをコントロールできるという利点がある。それに、シリアルナンバーを手っ取り早く確認できる仕組みがあれば、医療機関や薬局にとっても有益だ。ウェブブラウザとバーコードスキャナーさえあれば、納入されたばかりの医薬品が本物かどうかをすぐに確認できる。

 もちろん、バーコードをコピーする違法業者があらわれる可能性はある。それでも、ブロックチェーンを用いることにより、疑わしい動きへの注意を喚起し、それを恒久的に記録できる。

 メディレッジャーは、さらにもう一段階先に進もうとしている。個々の製品が現在どこにあり、これまでどこを経て移動してきたのかを、いつでも把握できるようにしようというのだ。「トラック・アンド・トレース」と呼ばれるプロセスである。ブロックチェーンを使えば、それぞれの企業の機密情報を他社に知られることなく、これを行うことができる。

 最近、25社の参加を得て、ブロックチェーンを活用したトラック・アンド・トレースの試験プロジェクトも実施された。参加者の中には、小売企業のウォルグリーンズとウォルマート、物流企業のフェデックス、バーコードの国際規格を策定・管理する団体であるGS1、医薬品卸売り企業のアメリソースバーゲンとカーディナルヘルス、そしてさまざまな製薬会社(社員規模100人の会社もあれば、12万5000人の会社もあった)が含まれている。

 メディレッジャー・ネットワークに参加する企業は最終的に、サプライチェーンのプロセス全体を通して、ビジネスルールの遵守をリアルタイムで徹底することもできるようになる。しかも、医薬品ビジネスのエコシステム内でメーカーや流通業者の目が行き届きにくい場でも、それが可能になるのだ。

 この仕組みでは、監査のプロセスはシステムに組み込まれて自動化される。そして、問題があれば注意喚起がなされ、そのときに製品がどの企業の手元にあったかも記録される。

 製品が最終目的地に到達したときには、いわばデータが満載された「フライトレコーダー」と一緒に届くような状況になるのだ。そのデータにより、納入された医薬品が本物であること、そしてサプライチェーンのすべてのプロセスでビジネスルールが守られてきたことが保証される。

「取引相手の領地内に、自社の大使館を設置するに等しい効果がある」。クロニクルドのスザンヌ・ソマービルCEOは、あるインタビューでこのように述べた。