(1)香港の拠点を縮小する
中国政府は、香港に国家安全維持法を適用する意向を固めた。内容はいまだ明らかではないものの(本稿執筆時点)、この動きは国内自治区としての香港の地位を確実に破たんさせることを意味する。
中国政府の直接的な介入によって、香港で「法の支配」が――中国本土では未成熟な機能だが――維持されるのか疑問が生じる。また、特に米国をはじめとする諸外国が、香港への優遇措置を撤廃するリスクも示唆される。
したがって企業は、影響を受けやすい活動を他の場所に移す緊急策を準備しておくべきだ。驚くことに、米中対立の影響を直接受けることになる米国企業は、危機を認識しながらも、準備をしていないと思われる。
2020年6月に香港の米国商工会議所が実施したアンケート調査によれば、回答した企業180社の半数以上が国家安全維持法を「きわめて憂慮している」としながらも、自社の事業に被害が及ぶと考えている企業は60%にとどまっている。
香港の中長期的な行く末に悲観的な企業は約半数を占めた。ところが3社のうち2社は、新法と緊張の高まりに対処するための計画を何も用意していないのだ。
(2)政治的にもっと安全な国にサプライチェーンを移す
昨今、製造ラインを中国の近隣諸国に移す取り組みが見られる。アップルやグーグル、マイクロソフトによるベトナムやタイでの生産強化などが例だ。しかし、それでは不十分かもしれない。
歴史をひも解いてみれば、どの国がどの経済圏に属するかを予測する重要因子の一つに「近接性」があり、これはたとえ自国の意向に反していても当てはまる。たとえば、東欧でワルシャワ条約に自発的に参加した国は少ないはずだ。
企業は少なくとも、世界の多くの地域がサプライチェーンの主要拠点として妥当でなくなる可能性を、考慮しておく必要がある。その代替として考えるべきは、さらに遠くても地政学的に「安全な」国々での生産能力の構築だ。
たとえば、アップルと取引する製造企業は、東アジアだけでなくインドやメキシコへの注目度も強めている。