
株主資本主義からステークホルダー資本主義への転換が叫ばれており、社会貢献のための投資、すなわちインパクト投資への関心が高まっている。だが現実には、社会にとって有意義な投資の多くは儲からず、投資家がインパクト投資に踏み出す理由は乏しい。筆者らは、資本主義の前提から見直し、ゲームのルールそのものを変える必要があると主張する。
米国財界ロビー団体のビジネス・ラウンドテーブルは2019年、「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換を提唱した。それから今年の8月で1周年を迎える。これらのビジネスリーダーは私たちに、大きく変わった世界を想像してみるよう求めた。
ところが、武漢のコウモリに寄生したウイルスは、独自の野心的な計画を持っていた。そのウイルスは目下のところ、世界をまったく違う方向へと様変わりさせている。これを機に政府が中央に引きずり出され、ビジネス界は(資本主義に対する姿勢がどうであれ)脇に押しやられている格好だ。
パンデミックの解決はビジネス界のみで可能だなどと、まともに期待する人はいない。とはいえパンデミック以外の問題については、「インパクト投資」(社会貢献のための投資)を標榜する一部の投資家は次のように主張している。
世界経済を弱らせている深刻な諸問題――たとえば気候変動や、世界各地の女性の低識字率などは、ビジネス界のみで、商業的利益を犠牲にせずに解決できるというのだ。
この考え方に関心を寄せる面々の中には、大手の銀行やコンサルティング会社、ビジネスロビー団体、さらには元首相らまでいる。インパクト投資の旗振り役の一人、ロナルド・コーエン卿の考えによれば、この方法は資本主義を、そして世界の最も深刻な問題の多くを救う「革命」になりうるという。
これはパンデミック後のあるべき賢明な経済を示す魅力的なビジョンであり、筆者ら自身もインパクト投資家および経済学者として、その大志を応援する。
しかしながら、本気で資本主義を立て直したいならば、従来の発想のままのインパクト投資では不十分である。パンデミックが例外なわけではなく、平常時であっても、企業が利益を出しながら実行できることは非常に限られているのだ。
必要なのは、私たちの経済の仕組みを規定しているルールを改めることであり、この部分でインパクト投資家にはきわめて重要な役割がある。