
全国的な抗議運動を機に、米国の人種差別が個人の問題ではなく、構造的な問題であることが理解され始めている。人種差別を根絶するには、社会や組織の文化を抜本的に変える必要がある。しかし、これまで通りのDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の取り組みでは、それを実現することはできないだろう。本稿では、新たなDEIモデルを構築する4つのポイントを提示する。
米国の白人は、人種差別が構造的なものであることをようやく理解し始めている。これは、いくつかの腐ったリンゴだけの問題ではなく、数回の良好な対話で解決することもけっしてない。米国社会の組織から構造的な人種差別を取り除くためには、米国社会の文化を変えなければならない。
とはいえ、どうすればいいのか。企業は、たとえばチーフ・ダイバーシティ・オフィス(CDO)を置き、バイアスに関するトレーニングを行っている。あるいは、従業員リソースグループ(ERG)[訳注1]を導入し、ブラック・ヒストリー月間[訳注2]を祝う。しかし、なぜこうした努力が実らないのだろうか。
CDOやバイアスに関するトレーニング、ERGは、持続する微妙なバイアスに向き合っていない。40年にわたる研究によると、白人男性は人口統計学上のどのグループよりも、自分の実力を証明する必要性が低い。彼らの成功はより注目されて、失敗はより注目されない。
1つ例を挙げてみよう。問題の重要性に気がついたある企業の要請で、筆者(ウィリアムズ)が勤務評定の監査をしたところ、有色人種の従業員の評価のうち43%がミスに言及していたが、白人男性の評価ではわずか26%だった。
これはほんの始まりにすぎない。30年にわたる研究によると、白人男性は他の人種に比べて、性格や対人関係の問題を許されやすいこともわかっている。
たとえば、怒りについて。怒っても無理はないという場面で、白人男性の弁護士の56.1%は怒りを表現してかまわないと感じるのに対し、有色人種の女性の弁護士は39.6%にすぎない。「怒る黒人男性」、あるいは人種を問わず「怒る女性」と見なされることは、基本的にキャリアのプラスにはならない。
CEOに占める白人男性の割合が、2005年の93.4%から2017年は89.4%と、10年以上の間に4%しか減っていないことは予想の範囲内だ。さらに、シニアリーダーシップ(バイスプレジデント、上級バイスプレジデント、Cレベル〔経営幹部〕)の70%近くを白人男性が占めていることは、最上層部ではほとんど変化がないことを示唆している。
米国の企業がDEI(ダイバーシティ〔多様性〕、エクイティ〔公平性〕、インクルージョン〔包摂〕)に時間と財源を投じながら、構造的な人種差別への対応に失敗していることは、予想通りの結果をもたらしている。グーグルは2014年に1億1400万ドルをDEIに費やしたと言われているが、2020年の報告によると、アフリカ系米国人は全従業員の3.7%、リーダー的な職務の2.6%にとどまっている。
筆者の一人、ジェームズ D. ホワイトはアフリカ系米国人CEOとして、ジャンバ・ジュースでダイバーシティを織り込んだ組織改革を主導した。同社に在籍した7年間で、マネジメントの上位3レベルの多様性を3倍に、上位2レベルについても20%から50%に、それぞれ高めた。
その7年間に会社の時価総額が500%急騰したことは、すべてのグループを同じ基準で扱う真の能力主義を築いたジェームズの努力の成果だと、筆者らは考えている。すべての労働者が才能を発揮できれば、一部の人だけが才能を発揮する場合よりも優れた結果が生まれるだろう。
もう一人の筆者、ジョーン C. ウィリアムズは白人の研究者で、人種やジェンダーに関する微妙なバイアスが、企業の文化やシステムを通じてどのように伝わるかについて、さらにはエビデンスに基づいた「バイアスの遮断(bias interrupters)」のステップがそれらのシステムや習慣をどのように変えることができるかについて、論文を執筆している。
カンザス大学の社会心理学者モニカ・ビアナットはある実験で、ウィリアムズが作成した2ページ半のワークシート「パフォーマンスの評価におけるバイアスの認識と遮断」(オープンースで公開されている)を被験者に配った。そして、このワークシートを実践するだけで、それ以外に特別なことをしなくても、黒人男性、黒人女性、白人女性の加点が大幅に増えた。
「バイアスの遮断」はエビデンス、計量、目標設定に基づくステップで、つまり企業があらゆる問題を解決する際に使うツールと同じだ。そのようなツールがDEIの文脈で使われていないことが、多くのことを物語っている。
構造的な人種差別に対処するには、人種差別を強化するような構造を変える必要がある。ここでは、ホワイトとウィリアムズそれぞれのアプローチを融合させて、そのような変化を実践するために必要な新しいDEIモデルの4つの要素を提案したい。