(3)インセンティブの変更と中間管理職の能力強化
ホワイトが経営に携わってきたすべての組織において、文化を変えるカギを握るのは中間管理職だった。効果的な方針はインクルージョンを可能にするが、実際に遂行できるかどうかは中間管理職にかかっている。
ホワイトはジャンバ・ジュースで新しいインセンティブ制度を導入した。店長の報酬の最大20%が、エンゲージメント、風土、組織の健全性のスコアによって決まる。ホワイトはギャラップQ12(キュー・トゥエルブ)[訳注3]の変形版を使用した。
ウィリアムズの「ワークプレイス・エクスペリエンス・サーベイ」も有用なツールの一つだ。これは10分間の質問によって、人種やジェンダーに対する偏見の基本的なパターンと、それが行われる場面、帰属意識やその組織で働き続けたいという意思などにバイアスが及ぼす影響を具体的に示す。
構造的な人種差別に対処するためには、あるグループがバイアスによっていつも優遇される具体的な過程を理解して、それをもとに新しい方針や手順、インセンティブの背景を理解できる管理職が必要だ。そのためのトレーニングは、バイアスを遮断する具体的な方法を提示する前に、バイアスに対する基本的な認知を学ぶことだけでなく、さらに踏み込んだ内容が求められる。
ウィリアムズが提唱する管理職向けの「個人のバイアスを遮断するワークショップ」では、バイアスが現場でどのように展開されるかを説明し、自分が個人的に不安を感じることなくバイアスを遮断する方法をブレインストーミングする。
ほかにもさまざまな取り組みがある。フェイスブックのインクルージョン・トレーニングでは、バイアスを遮断する方法をブレインストーミングする。同社はさらに、バイアスを認識するプロセスを、複数のトレーニングに深く組み込んでいる。
ここでもやはり、重要なのは構造的な取り組みだ。1つのトレーニングだけでなく、新入社員研修からリーダーシップ育成プログラムまで、すべてのトレーニングにおいて途切れることなく、バイアスが企業文化にどのように入り込むかという教育を継続しなければならない。さまざまな場面で経験するバイアスを、エビデンスをもとに体系的に学ぶのだ。
(4)人事制度からバイアスを取り除く
ウィリアムズは、ビジネスのシステムが人種とジェンダーの偏見をどのように伝達するかを詳細に研究している。
彼女のチームが全米の弁護士を対象に行った調査によると、採用、公平な業績評価、メンタリングおよびネットワーキングの機会、質の高い仕事への配属、公平な報酬と昇進について、公平な機会が欠けていると答えた有色人種の男女と白人女性は、白人男性よりはるかに多かった。
彼らの調査ではほかにもさまざまな業界で、白人男性以外のグループの経験が、白人男性とは異なることが明らかになっている。最も大きな違いを経験しているのは有色人種の女性で、有色人種の男性と白人女性は中間に位置する。
顕著な違いも少なくない。たとえば、同僚に比べて自分の実力を証明しなければならないと感じている人は、白人男性のエンジニアはわずか3分の1なのに対し、女性と有色人種は3分の2に上る。
質の高い仕事に平等なアクセスを与えられていると答えた有色人種の女性弁護士は、白人男性より28ポイント低かった。別の調査では白人男性の建築家の約4分の1、黒人女性の3分の2が、報酬に偏見が混じっていると答えた。
人事制度からバイアスを排除するためにはまず、CEOなどエグゼクティブの賛同者、CDO、人事部長、新しいことを柔軟に受け入れる優秀な管理職、データアナリストなどを含むアクション・ラーニング・チームを任命する。そして、通常の業務を免除される期間と権限を与え、バイアスを排除する期限を決める。
最もわかりやすいアプローチは、ウィリアムズによるオープンソースのツールキットを採用することだ。エビデンスに基づく主要な測定基準を使って、取り組みの進捗を測る基準を定めやすいだろう。これらのツールは、ビジネスのあらゆる課題と真剣に取り組む際に役立つものでもある。
構造的な取り組みは、確実な結果をもたらす。ある保険会社は、客観的な基準を開発して、応募者全員を同じ基準で評価したところ、マイノリティの採用が46%増えた。
ほとんどの組織では、CDOはダイバーシティに関連する人事システムについて、すべてどころか一つも権限を持っていない。1つの制度のバイアスを排除したところで、バイアスはあらゆるところに残り、ひっそりと、しかし効果的に、白人男性のための目に見えないエスカレーターを動かし続ける。その間、白人男性以外の人は、苦労して階段を上り続けなければならない。
構造的な人種差別に効果的に対処するには、CDO(CEOと兼任の場合もある)に公式なシステムと非公式なシステムの両方を変える権限を与え、一般的には、有色人種の男女とあらゆる人種の女性を助けるような組織改革を進めなければならない。
1)民族や性別、性的指向、宗教などの属性を共有する従業員同士をつなぐグループ。
2)黒人歴史月間、アフリカ系米国人月間。アフリカ系の偉人や歴史を振り返る年間行事。米国とカナダは2月、イギリス、アイルランド、オランダは10月。
3)エンゲージメントを測定する12の質問。
HBR.org原文:Update Your DE&I Playbook, July 15, 2020.
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