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在宅勤務が常態化したことで、バーチャルでのコミュニケーションが当たり前になった。SNSで社外に発信することを推奨する企業もあり、オンライン上のコミュニケーションは多様化している。部門や会社を超えた接点が広がるメリットがある一方で、オンライン上でハラスメント被害に遭う人も多く、特にマイノリティに対する攻撃は深刻である。組織はこの問題を真剣に受け止め、従業員を守るために支援しなければならない。


 米国の法律では、雇用主は差別やハラスメントのない職場をつくることが義務づけられている。しかし、オフィスがバーチャル化する中、従業員がオンラインでヘイトやハラスメントに直面したらどうするのか。

 米国人の44%以上がオンライン・ハラスメントを経験したことがあると報告しており、あなたが雇用主なら組織内に被害を受けた従業員がいる可能性が高い。大衆と直に接する仕事(ジャーナリスト、政策立案者、学者など)をしている人にとっては、オンライン上の嫌がらせは日常的な仕事の一部かもしれない。

 オンライン上の嫌がらせは誰でも受ける可能性があるが、女性、BIPOC(黒人・先住民・有色人種)、LGBTQ+(性的少数者)は、自身のアイデンティティを理由に過度に標的にされ、深刻なハラスメントを経験している。また、多くの組織が公平でインクルーシブな職場環境を提供することを公言するようになり、オンラインの嫌がらせの実質的な影響を無視することはできなくなっている。

 しかし、各業界内でも異業種間でも、仕事上の影響については研究がかなり遅れている。

 クリエイティブ業界とメディア業界は、私たちが調査を行っている数少ない業界の一部だ。ライターやジャーナリストを対象に行ったペン・アメリカン・センターの2017年の調査では、オンラインの嫌がらせを経験した回答者の3分の1以上が仕事への影響を報告しおり、64%がソーシャルメディアの使用を停止し、37%が特定のトピックに関する執筆を避け、15%が記事の掲載をすべて停止したと答えている。

 米国の女性およびジェンダー・ノンコンフォーミング(性別の表現が従来の規範に当てはまらない)のジャーナリストを対象としたジャーナリスト保護委員会の2019年の調査では、自身が経験した唯一最大の脅威にオンラインハラスメントを挙げた人が90%に上った。

 つまり、メディア業界ではオンラインの嫌がらせが職業上の将来性に損害を与え、これまでも業界で平等な扱いを受けてこなかった人々の言論を抑圧している。人種やジェンダー、社会から取り残されている人々の権利をめぐる議論の中で、沈黙させられる危険にさらされている人々の声を聞くことが急務なのだ。

 現在のところ、他業界における影響を評価する確かなデータはないが、IT金融ゲーム高等教育などの業界で横行しているオンラインの嫌がらせについては、記事が無数にある。

 雇用主は従業員がソーシャルメディアを積極的に利用することを期待するようになり、ほとんどの業界でメールや携帯電話の使用が事実上義務づけられているが、これらはすべて被害を受けやすくする要因だ。

 しかし、この問題が職場で議論されることはほとんどない。実際、従業員が支援を受けるどころか、ハラスメントを受けたことで懲戒処分を受けたり、停職解雇されたりするケースもある(ネット上のトロールにとっては夢のようだ)。

 雇用主は対応を改善する必要がある。従業員が仕事をめぐってオンライン上で攻撃を受けた場合、組織はそれを真剣に受け止め、対処を支援する責任がある。

 何から始めるべきかわからないと感じる雇用主もいるかもしれないが、実際には、チームがオンラインの嫌がらせに備え、対応し、被害を軽減するうえでサポートするために、できることは多い