Illustration by Gracia Lam

米国で始まったブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに、人種差別への抗議を示す企業が増えている。黒人が所有するわけでも、黒人リーダーが活躍するわけでもない会社がそれをやる場合、消費者からどう評価されるのか。ブランドの「真正性」が認められ、顧客ロイヤルティを高めるために、企業は何をすべきなのだろうか。


「人種差別がまかり通っている社会では、人種差別に手を染めないだけでは十分でない。人種差別に反対すべきである」

――アンジェラ・デイビス(米国の政治活動家、研究者、著述家)

 最近、社会正義を求める活動が活発化し、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動への支持が高まっていることをきっかけに、企業もさまざまな行動を取り始めている。

 人種差別的なニュアンスをまとったブランドを打ち切ったり、露骨に、あるいは漠然と人種差別的な性格を持つブランドを軌道修正したり、BLM運動との連帯を明確に表明したり、人種間の正義を目指す活動に寄付したりする企業が相次いでいるのだ。

 しかし、消費者は、このような企業の行動にどの程度の真正性を感じているのだろうか。黒人が所有しているわけでもなければ、黒人リーダーを積極的に登用してきたわけでもない企業の場合、とりわけこの点が問題になる。企業がこれらの行動を取ることは、長い目で見てブランド・ロイヤルティを強化する効果があるのだろうか。

ブランドの「真正性」とは何か

 専門家によると、ブランドの真正性(brand authenticity)とは、消費者がブランドの継続性、信頼性、高潔性、象徴性をどの程度認めているかによって決まる。

 継続性とは、ブランドがみずからを裏切らないこと。信頼性とは、顧客の期待を裏切らないこと。高潔性とは、コミュニティへの気遣いと責任感に突き動かされて行動していること。象徴性とは、消費者が重んじる価値を反映した行動を取っていることを意味する。

 このうち「継続性」と「信頼性」は、もっぱら会社と顧客に目が向いている要素なので、それらの行動は企業志向のものと見なせる。それに対し、「高潔性」と「象徴性」は、その会社が直接関わる範囲を超えた社会全体の問題に関わるものだ。その意味で、それらの行動は社会志向のものと言えるだろう。

 企業志向の行動と社会志向の行動はいずれも重要だ。どちらのタイプの行動によっても、ブランドの真正性は表現できる。しかし、人種間の不平等のような社会問題が注目を浴びているときは、社会志向の行動のほうがブランドの真正性を高める効果が大きい可能性が高い。

 ブランドは、このいずれの志向の行動を取るかに加えて、それぞれの行動を積極的に行うか、受動的に行うかも選択できる。いわゆる「アライ(理解者・支援者)」として、人種差別的な行動をせず、サポート役に回る(すなわち変革を支持しつつも行動は限定的)こともできるし、「アクティビスト(活動家)」として、反人種差別の行動やキャンペーンに主体的に関わることもできるのだ。

 本稿の筆者らは、マーケティング論の研究者として、消費者とブランドの関係について研究してきた。本稿では、その経験をもとに、読者に一つの枠組みを示したい。

 企業はこの枠組みを用いることにより、自社の行動が消費者にどの程度の真正性を感じさせられるかを把握できる。行動の志向(企業志向か社会志向か)と積極性の度合い(アライかアクティビストか)の2つの要素を掛け合わせて考えることにより、ブランドが社会問題に関して取る行動をいくつかに分類して、それぞれが醸し出す真正性の程度を理解することができるのだ。