
米中の貿易戦争が激化する中、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生してグローバルサプライチェーンが機能不全に陥ったことで、米国では脱グローバル化を求める声が高まっている。あたかも有力な問題解決策だと思われるかもしれないが、脱グローバル化は米国企業に損失をもたらし、中国を利するだけだと筆者は主張する。
世界は、まだコロナ禍を抜け出せていない。というより、危機はまだ始まったばかりなのかもしれない。それでも、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界がどのように様変わりしたかについて、すでにさまざまな見方が示され始めている。
この危機により、米国は自国のサプライチェーンの脆弱さを思い知らされた。コロナ禍で重要な物資の輸入が停止したのをきっかけに、米国の多国籍企業に対して、国内に生産拠点を戻すよう求める声も高まっている。
ただでさえ米国と中国の貿易戦争が激化し、米国政府が中国との経済的なデカップリング(切り離し)を推し進めていた中で、このような状況になり、脱グローバル化の進展を予測する見方も広がっている。米国通商代表部(USTR)の代表まで、新聞への寄稿の中で、生産拠点の海外移転に終止符を打つべきだと主張した。
しかし、米国の多国籍企業は、未来がこのような予測通りにならないことをよく知っている。サプライチェーンの脱グローバル化と、中国とのデカップリングを推し進めれば、米国企業の国内生産能力が落ち込み、長い目で見れば中国企業に対する競争力も弱まると理解しているのだ。
実際、米国主導でビジネスの脱グローバル化が進めば、米国の経済的・政治的孤立が深まり、中国を利するだけだ。それに、生産拠点を国内に戻しても、サプライチェーンのレジリエンスはそれほど高まらない。
米国の多国籍企業は、こうした点を理解している。そのため、企業は脱グローバル化などの求めに抵抗しているのだ。そうした求めは、善意によるものとはいえ、むしろ米国経済に打撃を与えるものだからだ。
たしかに、コロナ禍と米中経済冷戦は、グローバル経済の現状に変化をもたらすだろう。たとえば、重要な医療物資が地元で生産されるようになったり、戦略上重要なテクノロジーの国外への移転が禁じられたりするかもしれない。
しかし、グローバル化した経済の基本的な構造(と、その中での中国の役割)は変わらない。その理由は以下の4点だ。