(3)中国はグローバル化を活発に推し進めている
中国は、労働集約型産業の安価な製品で東南アジアや東ヨーロッパとの競争に敗れつつあることを自覚し、産業のグローバル化を急速に進めている。発電機器、建設機材、通信システムなどの高付加価値産業に対して、中国政府が旗を振る「一帯一路」構想の中で国外のプロジェクトを受注したり、国外市場での事業に投資したりすることを促している。
中国の国有企業などの多国籍企業は、米国の多国籍企業が何十年もかけて築いてきたものを欲している。それは、生産と研究開発と販売と流通の国際的ネットワークだ。
米国企業は、そうしたネットワークを通じて、世界各国の強みをうまく活かしてきた。そうすることで、国内での競争力を強化しようとしてきた面もある。
たとえば、カミンズは、販売とサービスの強力なネットワークを擁していなければ、いまほど多くの「メイド・イン・アメリカ」のディーゼル・エンジンを中国の顧客に販売できなかっただろう。そのネットワークを築く土台になったのが、自社の中国における生産活動だった。
中国の国内市場の成長が鈍化し始めたことを受けて、中国の部品メーカーも同じように外国市場に目を向けつつある。
米国のメディアは、中国の一帯一路構想について、法外な条件で巨大プロジェクトを売りつけて新興国を食い物にしていると批判する。しかし実際には、一帯一路構想のプロジェクトの大半は、規模が小さく、現地の医療機関や都市交通機関などの基礎的サービス供給者ときわめて協力的に取引を行っている。
これは、中国の国有企業をグローバル化させるための取り組みなのだ。
(4)脱グローバル化は、一見すると素晴らしい考え方に思えるかもしれないが、競争が厳しい市場で商品を設計する場合は、そうは言っていられない
脱グローバル化を提唱する言説は、世界規模のサプライチェーンから脱することの難しさと代償の大きさを過小評価し、コスト抑制とレジリエンス(再起力)向上を両立させることの難しさを過大評価している。
米国の多国籍企業は、ほかの国の企業の頭脳と能力に依存している。たとえば、ボーイング787型機が画期的旅客機になれたのは、翼と前部胴体を日本メーカーから購入しているからだ。その日本企業は、炭素繊維(カーボンファイバー)のエンジニアリングに関して独自のスキルを擁しているのだ。米国の主要産業にとって重要な能力は、世界のどの国も等しく持っているわけではない。
多国籍企業は、新しい国際的な環境に適応することを最も得意としている。それに、国外生産の拡大や在庫の積み増し以外にも、サプライチェーンのレジリエンスを高めるための手立てを持っている。
たとえば、調達先を増やすこともできる。既存の調達先に加えて、破滅的事態が降りかかるパターンが正反対の調達先を新たに加えるのだ。また、納入業者に対して、柔軟性の高い工場をつくり、不足した品物を迅速に生産できる体制づくりを求めてもよい。
情報をリアルタイムで集めて、脅威に素早く対処することもできる。特殊化学メーカーのルーブリゾールは、自社が必要とする原料が工場と輸送過程と納入業者の倉庫にどれだけ蓄えられているかを常に把握している。加えて、いざというときに使う代替原料に関しても、同様のデータを集めている。
レジリエンスの強化を目指しても、コストのマネジメントを諦める必要は必ずしもない。そのために必要なのは、協力関係を深め、能力を強化することなのだ。
煎じ詰めれば、グローバリゼーションが起きるのは、それによって価値が生み出されて、企業の能力が拡大するからだ。経済上の現象はすべてそうだが、時にはグローバリゼーションが過剰になり、不公正な状況が生じたり、供給リスクが深刻化したりして、米国の安全が脅かされることもある。中国が国際貿易システムを不当に利用していること、そしてコロナ禍により重要な物資の供給が滞ったことは、その例だ。
いずれの問題に対しても、米国政府はピンポイントの対策を講じる必要がある。具体的には、中国に罰を与え、一部の物資を米国内で生産するよう命じるべきだろう。しかし、それは自衛のための行動であって、脱グローバル化への動きではない。
グローバリゼーションが中国に恩恵をもたらし、米国には恩恵をもたらしていないなどという主張には、説得力がない。
米国は年間2.5兆ドルのモノとサービスを輸出している。これは、中国(年間2.8兆ドル)に次ぐ世界2位だ。輸出産業は、米国経済で最も利益率が高く、最も業績のよいセクターだ。米国の経済生産に占める割合も12%に達している。
すなわち、脱グローバル化を推し進めれば、米国経済の最良の部分が失われることになるのである。
HBR.org原文:Abandoning Globalization Will Only Hurt U.S. Businesses, August 20, 2020.
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