(1)米国のテクノロジー産業は、国外での売上げと事業活動に依存している
米国の強大なテクノロジー企業は、ほかの国のライバル企業との競争に打ち勝つために、世界規模での売上げと事業活動に依存している。
半導体、きわめて環境に優しいディーゼル・エンジン、消費者向けエレクトロニクス製品などの分野ではことごとく、大規模な研究開発投資が必要とされる。それに、インテル、アップル、エンジン大手のカミンズいった企業は、中国で製造と販売を行えなくなれば、世界の市場に君臨し続けられないだろう。
米国の産業の中で対中貿易黒字を計上しているのは、付加価値の高い製品をつくっている産業だ。それに対し、アパレル、家具、エレクトロニクス製品の組み立てなど、対中貿易赤字がとりわけ大きい産業は、付加価値の少ない製品を扱っている。
中国は、高付加価値製品の市場規模が世界で最も大きく、今後も市場の拡大が急速に進むだろう。米国が中国とのテクノロジー戦争に乗り出し、互いに相手国の企業を国内市場から締め出すような事態を招けば、中国が米国からリーダーの座を奪い取るのを助けるだけだ。
(2)脱グローバル化を進めても、工場が米国に戻ってくることはない
米国企業の国外生産拠点で製造されている製品の大多数は、現地で販売されている。米国に送り返されるものは、ごくわずかにとどまる。つまり、工場が国外に流出していなければ、多くの製品が国内で生産されていたかもしれない、とは言えない。
また、米国産の最終製品の部品として用いられる外国製品の輸入を制限すれば、製品のコストが上昇する。これは、最近の米中貿易戦争が浮き彫りにした通りだ。ニューヨーク連銀の推計によれば、中国からの輸入品への関税により、米国の世帯支出は平均620ドル増えているという。
コロナ禍で米国の対中貿易赤字は縮小したが、これは米国の消費者の購入額全般が減り、その中で中国製品の購入も減ったからだ。企業の生産拠点が米国に戻ってきたことが理由ではない。
加えて、先端ロボット工学などの分野でビジネスを行う米国企業は、外国製の安価な部品に頼っている。そのおかげで、米国は高付加価値製品を輸出できている面もある。
こうした中間製品の国際貿易は、言ってみれば非常に交通量の多い双方向道路だ。米国は中間製品を輸出するのとほぼ同じくらい、輸入している。鉄鋼や半導体などの中間製品の貿易を制限すれば、あらゆる国でものの値段を上昇させてしまう。それは、どの国にとっても得にならない状況だ。