
リーダーが権力を誇示したり、威圧的な態度で部下を追い込んだりすることは、短期的には成果を上げるかもしれないが、長期的にはチームのパフォーマンスを低下させ、組織を破滅に導く。ただし、当人にその問題を自覚させ、改善を促すのは容易ではない。リーダーとしての自主性と裁量が脅かされると感じて、身構えてしまうのだ。筆者は、有害なリーダーを変えるために、「ナッジ」を導入した3つのアプローチの実践が有効だという。
リーダーが組織を正しい方向に導くためには、強い意志に基づくアプローチが必要である。
リーダーは、戦略的いじめ(strategic bullying)を実行できる強大な威嚇者でなければならない。多くの人がそのように考えているだろう。実際、大企業の舵を取るためには──反抗的なメンバー、硬直した管理システム、激動するビジネス環境の中では特に──強い意志が不可欠だと思われている。
それもたしかに一理ある。ただし、権力を誇示するリーダーシップが機能するという意味ではない。それどころか、短期的には有益な結果をもたらすかもしれないが、長期的な結果は、従業員にとっても組織全体にとっても、はるかに壊滅的なものになり得る。
筆者が米国と中国で上司と部下の関係を調査したところ、リーダーが部下に攻撃的な言葉を使うと、部下は日常のタスクについてよりよいアプローチを考えるようになり、翌日のパフォーマンスが向上することがわかった。同様の研究によると、公の場で上司から屈辱的な扱いを受けた専門職は、威嚇や処罰に対する不安に駆られて、仕事上の問題を解決しようとする。
ただし、これには続きがある。ここで挙げた利点は、リーダーの威圧的な態度はよりよい結果を引き出そうとしているのだと思っている少数の部下に、一時的に見られるだけなのだ。さらに、筆者が2週間の調査で観察した日々のパフォーマンスを集計したところ、平均して、上司による不当な扱いをいっさい経験しなかった部下と比較すると、はるかにパフォーマンスが悪かった。
1カ月から1年をかけて上司と部下の関係を調べた筆者の別の研究でも、時々ではあっても脅迫的な扱いを受けている部下は、長期的なパフォーマンスが予想よりはるかに悪く、上司に対しても会社に対してもコミットメントが低くて、きわめて頻繁に非生産的な勤務態度や敵対的な行動を取ることがわかった。
上司が権力を誇示することによって生まれる、機能的に見える短期的な効果は、長期的には多大なコストを組織にもたらすようだ。
興味深いことに、このような狡猾で微妙だが有害な影響に、上司は気づいていないことが多い。経営幹部やマネジャーは、脅迫的な人間関係が積み重ねていくであろう悪影響も見過ごしがちだ。その結果、マネジャーによる権力の誇示や脅迫を抑制するために適切な解決策を考えようにも、企業はあまり効果的な対応ができずにいる。
ダイバーシティ研修のように規範的な行動基準を重視するプログラムも、逆効果になりかねない。マネジャーは、自分にふさわしいと考える自主性と裁量が抑制される脅威と受け止め、これらの原則に意図的に抵抗して、自分の管理能力の独立性を守ろうとするのだ。
しかし、筆者やほかの専門家の研究が示唆するように、職場に強力かつ集団的な「ナッジ」の仕組みを導入することによって、有害なリーダーシップを抑制することができる。
この仕組みでは、組織のさまざまな階層の経営幹部と従業員が連携して、3つの方向からマネジャーの建設的なリーダーシップを促す。すなわち、プロセス指向のリーダーシップ評価プログラム、状況に応じたリーダーシップ研修プログラム、従業員の自己遮蔽プログラムの3つだ。
それぞれのプログラムと、その成功を示す事例を見ていこう。