アップルペイは消費者にフォーカスした
顧客体験に徹底的にフォーカスするというスティーブ・ジョブズ主導の文化は、2014年に発売されたアップルペイ開発の中核をなしていた。
そのコンセプトはシンプルだった。アップルペイは決済端末からの暗号化されたNFC(近距離無線通信)の信号を受信し、ユーザーはクレジットカードの代わりにiPhoneで支払いができる。
このサービスは安全でシームレスで高速な、真に未来的な消費者体験を提供しているように見えた。NFCは処理が非常に速く、消費者は指紋で取引を認証することができ、不正行為を大幅に減らすことができる。
しかし、米国の平均的な消費者にとって、アップルペイで支払いをしても店舗内での決済を数秒節約できるだけであり、デビットカードやクレジットカードでの支払いに比べてわずかに利便性が高いにすぎなかった。
アップルは、銀行や小売店と相互に有益なパートナーシップを構築することを重視していなかった。顧客がすぐにアップルペイを利用することを前提に、同社は当初から収益化を試み、銀行やクレジットカードの発行会社に対してアップルペイの1決済当たり0.15%前後の手数料を課した。通常のクレジットカードの手数料、すなわち1決済当たり1.15%+0.05ドル~3.15%+0.10ドルにこれが加わることになる。
NFCを搭載したPOS端末の導入に必要なソフトウェアや従業員のトレーニングを考慮すると1000~2000ドルのコストがかかり、アップルペイを導入するインセンティブはほとんどない。アップルペイのローンチ当時は全POS端末のうちNFCに対応していたのは約10%にすぎず、小売店のコスト面の課題と、消費者に対するメリットが限られていたことが、普及の妨げとなった。
ローンチから5年が経過した2019年でも、アップルペイの国内での伸びは鈍いままだった。現在、北米で出荷されているほぼすべてのPOS端末がNFCに対応しているにもかかわらず、実店舗でアップルペイの利用が可能な人のうち、実際に利用したのはわずか6%程度だ。
新型コロナウイルスのパンデミックの最中、利用者数が大幅に増加したと考えるだけの十分な根拠はある。しかし、中国でのアリペイの優位性に匹敵する存在になるには、何年にも渡って利用者が飛躍的に増加する必要がある。