アリペイは消費者だけでなく
全関係者の価値創造にフォーカスした
アリペイの運用会社は2011年にアリババから分社化され、2014年にアントフィナンシャル(現アントグループ)となり、親会社アリババの大規模なeコマースサイトで購入した商品の支払いを、信頼できる実証済みの方法で行いたいという消費者のニーズを受けて成長した。アリペイはそのためのソリューションだが、その背後にある戦略は決済にとどまらなかった。
アリペイは0.6%前後の決済手数料を加盟店から受け取っている。これは中国におけるクレジットカード決済手数料の約半分だ。
顧客が現金を使用するよりはコストがかかるが、加盟店は多くの場合、アリペイの導入による売上増が期待できる。さらに、アリペイはNFCや特殊なPOSシステムではなく、カメラとインターネット接続だけで取引可能なQRコードを採用しているため、加盟店が店舗にアリペイを導入するコストは非常に低い。
アリペイは、アップルペイとは異なるアプローチで価値を創造し、プラットフォームを収益化した。あらゆる種類の消費者インサイトを加盟店と共有することで、顧客に新しいサービスを提供し、的確なプロモーションを無料で実施することもできた。
アントグループは、アリペイの加盟店や消費者と協力して機密保護を改善し、損失を減らし、加盟店が収益を上げつつリスクを減らす支援をした。最小限の投資で新規ビジネスを獲得しようと中小企業がアリペイに群がり、2014~2018年にアリペイを導入した加盟店はおおよそで100万店から3000万店へと急拡大した。中国の全小売店の約70%が同サービスを導入したことになる。
アリペイの成長に伴い、アントグループはそのデータを利用して新たなパートナーシップを構築し、新サービスを提供して、それを収益化した。アップルペイを介した決済取引額が数十億ドルなのに対し、アリペイの額は数兆ドルに上る。
アントグループは取得した決済データに基づき、消費者と加盟店の双方に対して、利益率の高い商品を多数提供することができる。若年層や低所得層の消費者にはクレジットカードや資産管理サービスを、中小規模の加盟店には少額短期融資を提供している。これらの商品は、従来はこの層を対象にしておらず、同社にとって非常に有益だ。
これが成功したことで、アントグループの企業価値は、2016年は750億ドルだったのが、わずか4年で2000億ドルに上昇した。