意欲的なプラットフォームのリーダーが学べること
当然ながら、アップルペイとアリペイのケースには注意すべき点がある。
まず、米国と中国のモバイル決済市場には重要な違いがある。なかでも中国では現金からモバイル決済への移行がいっきに進んでいるのに対し、米国ではクレジットカードから非接触型決済への移行が進んでおり、これにはモバイル決済だけでなく「タッチ決済」のクレジットカードやデビットカードが含まれる。
中国ではモバイルインターネットも米国よりはるかに急速に進化しており、モバイル決済もその一部だ。さらに、中国経済は急成長しており、アリペイの主要な競合相手であるウィーチャットペイを含む国内の決済サービスにも強力な追い風となっている。
消費者の意識も変化している。新型コロナウイルス感染症の発生前は、米国の消費者や小売店の多くが関心を持っていたのは取引のスピードと利便性、セキュリティだった。現在では、双方ともに健康と安全性を重視しており、非接触型決済の導入が増加している。こうした状況の中でアップルペイは、本来このサービスが解決を目指していたのとは異なる問題のソリューションとして浮上した。
この変化がすでに進んでいることは明らかで、決済企業には、これまでとは異なる価値観が必要になるだろう。
プラットフォームのリーダーにとっての教訓は2つある。第1に、時間とともに変化する優先度の高いペインポイント(課題)に対処することで、プラットフォームの全関係者に価値を提供しなければならない。
第2に、プラットフォームのリーダーは製品だけでなくエコシステムを収益化し、プラットフォームの片側(サイド)にいる顧客に負担をかけることで、全体的な導入を妨げないようにすべきだ。
モバイル決済から学び、サービス導入の戦略的ドライバーを考えることで、他の業界のプラットフォームリーダーは、自分たちはアップルペイではなくアリペイのようだと思われるはずだ。
HBR.org原文:Why Hasn't Apple Pay Replicated Alipay's Success? September 14, 2020.
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