デジタル技術を活用し、限られた資源を循環的に活用することで、環境負荷を最小限に抑えながら持続的に経済価値を生み出していく──。欧州に端を発した「サーキュラー・エコノミー」は、今世紀最大の資本主義革命ともいわれる新たな成長モデルであり、今も世界中で新たなビジネスが立ち上がり続けている。しかし、これまで日本企業の動きは鈍かった。日本企業が、CSRやリサイクル活動の枠を超え、ビジネスの中核にサーキュラー・エコノミーを組み込むために、今、何が必要だろうか。

日本に萌芽しつつある「本気」のCE

牧岡 宏(まきおか・ひろし)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 統括本部長
シニア・マネジング・ディレクター 専務執行役員

東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学経営科学修士修了。丸紅、ベイン&カンパニーを経て2014年にアクセンチュアに参画。 全社成長戦略、組織・人材戦略、M&A戦略等の領域において幅広い業界のコンサルティングを行いながら、同社のビジネス コンサルティング部門を統括している。 監訳書に『サーキュラー・エコノミー:デジタル時代の成長戦略』(日本経済新聞出版社)がある。

── 日本におけるサーキュラー・エコノミー(CE)の現状をどう見ていますか。

牧岡 企業によって温度差はあるものの、日本においても、ようやく事業の中核にCEを埋め込もうという「本気」が萌芽しつつあるように思います。

 2019年10月、ユニ・チャームが、紙おむつリサイクルの事業化計画を発表しました。使用済みの紙おむつを回収し、独自の再生テクノロジーでパルプと高分子吸収ポリマーを取り出し、滅菌し、新品同様の品質の紙おむつを製造するというものです。誰もが「使い捨てが当たり前」と思っていた紙おむつをメーカーが自ら回収し、資源循環のサイクルをしっかり回していこうというのです。紙おむつは、高齢化で今後ますます需要が増えますし、育児や介護の負担を軽減するという意味で社会貢献度も高い製品です。一方、使い捨てを続ければ、森林資源を消費し続け、焼却処分でCO2を排出し続けることになる。この事業は「環境への配慮」と「製品を通じた社会貢献」を高いレベルで両立させる先進的な取り組みといえるでしょう。

 8月には、ローソンが一部店舗で実験的に洗剤の量り売りを始めています。マイボトルを持っていけば、必要な量だけ中身を買えるので、プラスチックごみの発生や無駄な廃棄を減らすことができます。いまやコンビニエンスストアも率先してリデュースを推進しているのです。

 2015年に欧州委員会が環境戦略として「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を打ち出して以来、欧州では先進的な事例が増える一方で、これまで日本国内では、自社のコア事業とCSR活動とのリンクが見えづらいケースが多かったように思いますが、ここにきてようやく動きだした感があります。

── この5年で何が変わったのでしょうか。

牧岡 まず、デジタル化の進展によって、循環経済と事業収益を両立させるビジネスモデルが一通り出そろい、HOWの部分が明確になり、自社への適応のやり方が分かりやすくなったことが挙げられると思います(図表1)。もはやおなじみの「製品のサービス化(PaaS)」や「シェアリング」あるいは「プラットフォーム」型のビジネスはその代表ですし、利用ベースで課金するビジネスモデルも定着し、さまざまな製品が持続的なメンテナンスを通じて稼働年数を延ばせるようになりました。また、バリューチェーン上で発生する廃棄物を、デジタルを活用してスマートに回収・再利用する例も増えています。循環経済型の原料のバリエーションも増えており、売り切りモデルの製品でも、原料や製造方法を見直せば、コスト削減と環境負荷軽減が両立しやすくなっています。

── 多様なビジネスに応用できるモデルケースの蓄積が進んでいるのですね。

牧岡 もう一つ、グローバル企業やGAFAといった先進企業を中心に、CEが高次元化していることも挙げられます。アクセンチュアでは、企業がCEに取り組む動機を4段階に整理しています(図表2)。第1段階は社会的な正しさのため(エシックス)、第2段階は投資家などからの要請に応えるため(コンプライアンス)、第3段階は中長期的にサバイブするため(リスク)、そして第4段階が収益を拡大するため(オポチュニティー)です。日本企業の多くはまだ第1・第2段階、つまり「守り」の段階にとどまっていますが、先進企業は第3、第4段階の「攻め」にシフトしており、彼らの活動の広がりによって、CEで利益を生み出す仕組みの可視化が進んでいるのです。

 また、「サーキュラーネイティブ」なスタートアップは日本でも続々と登場しています。社会解題の解決こそを目的に起業した彼らは、「課題が真に解決し、自社が必要なくなる社会こそが目標」と一様に語ります。まさに新時代の価値観を体現する存在といえるでしょう。彼らの活動の様子が既存の企業に刺激を与えていますし、世の中の価値観の変化を促しているとみています。