●境界の設定にインセンティブを付与する

 忙しい文化を撃退することに、会社は徹底的にコミットする必要がある。働きすぎない従業員を褒め、追加の休暇を与えて報いるのはよい出発点だが、こうした措置はうわべだけだと思われがちだ。むしろ、忙しくしないことに対して会社側が手当を支払うほうが効果的である。

 過激な方法に感じられるかもしれないが、仕事を減らすことに対価を支払うのは、深刻になりつつあるこの問題に対する適切な解決策である。5分の4以上の従業員が週末に仕事関連のメールを送っている。10人のうち6人近くが休暇中に仕事関係のメールを出しており、半数以上が夜11時以降にメールをチェックしている。

 こうした行動は、従業員の健康や満足度、生産性に大きな影響を及ぼす。幸い、こうした行動をマネジャーは容易に追跡でき、境界の設定を促すきっかけとして利用することも可能だ。

 テクノロジー企業のフルコンタクト(FullContact)は何年も前から、インセンティブを設けている。同社の社員は、3つのルールに従えば7500ドルの年次休暇手当をもらえる。仕事関係のメッセージをチェックしない、仕事をしない、自宅から離れる(最近ではステイケーションも条件に該当することになった)というルールだ。

 この手当は、同社の中で「有給休暇の有給手当」と呼ばれている。休暇中の写真を見せること、コミュニケーション・チャンネルでモニタリングすること、本人が休暇の報告をすることで支払われるものだ。

 プログラムの開始から数年たった頃、フルコンタクトのコミュニケーションディレクターを務めるブラッド・マッカーティは『ワシントン・ポスト』紙の取材に応じ、このプログラムは「信じられないほどうまく機能している」と述べた。社員は休暇から帰ってくると「休暇前よりも輝いており、より懸命に働き、職場でいつものリズムに戻ることを喜んでいる」と語った。

 もう1つ、よく使われるアプローチは、有給のサバティカルを設定することだ。2011年に有給のサバティカルを与えていた企業はわずか4%だったが、2017年にはその4倍以上に増えた。

 未使用のサバティカルは雇用期間の終了時に有給休暇として買い取る必要がないため、通常の休暇ではなくサバティカルとして取り扱えば、企業は社内規定でより大盤振る舞いしやすい。

 高等教育機関においてはすでに、サバティカルは仕事とは関係なく、個人の成長のために使うことが文化的に受け入れられている。休暇をサバティカルとしてとらえ直すことは、社員が罪悪感を抱くことなく休暇を取る後押しとなるだろう。