
人種的公平を真剣に実現しようと考えているならば、既存のダイバーシティの取り組みでは不十分であり、リーダー層に白人男性が集中する現状を変えることはできない。過小評価されているグループから昇進させたり、業務を拡大したりするには、人事に影響力を発揮できるスポンサーからのサポートが不可欠だ。ただし、やり方を間違えると逆効果になりかねない。本稿では、スポンサーシップの成果を高める方法を紹介する。
人種的公平に対する企業の関心があらためて高まり、ダイバーシティの取り組みが、特に黒人従業員には効果がないことは、最近の研究で相次いで指摘されている。そこで多くの企業が、人材登用のパイプラインを多様化するための新たなアプローチに注目している。すなわち、スポンサーシップだ。
幹部クラスのジェンダーの多様性の促進に関する最近の論文で筆者(イバーラ)が説明した通り、スポンサーシップとは「上位職の有力者が自身の個人的な影響力を使って、下位の庇護対象者を周囲に売り込み、推薦して重要な役割に就かせる、という支援関係」である。
スポンサーはフィードバックや助言を与えるだけでなく、他の上級幹部に対する自分の影響力を利用して、あなたの昇進を擁護し、重要な意思決定者に注目される機会をつくる。
メンターは知識や視点、経験を共有するのに対し、スポンサーはプロテジェ(庇護対象)のために自分の力を行使する。この決定的な違いが、過小評価されているグループの従業員を積極的に昇進させたり、職務を拡大したり、極めて重要な役割に就かせたりするうえで、スポンサーシップを貴重なツールにしている。
ただし、スポンサーシップの取り組みは、慎重に設計しなければ機能しない。目標に合わせてスポンサーとプロテジェを組み合わせ、キャリア開発につながる人間関係がもたらす影響についてトレーニングをし、彼らが経験を通して学んだことを反復できる環境が必要になる。
アプローチによって失敗するか結果を出すか大きな違いが生じるからこそ、スポンサーシップについて、時間をかけて正しく理解しよう。
自分は何を求めているのか、
何を必要としているのか
人事部門の責任者は基本的にメンターシップとスポンサーシップの違いを理解しているにもかかわらず、過小評価されているグループの従業員のスポンサーを募る際は、メンターを募る時に近い判断をしがちだ。
たとえば、筆者らが一緒に仕事をしたある組織は、有色人種の従業員のスポンサーを増やすことにした。ただし、トップレベルの幹部が、中堅やキャリアの浅いプロテジェからたびたび意見を求められるのではないかと懸念して、スポンサーの条件を「年上の人」だけにしたほうがいいのではないかと考えた。
しかし、それでは上級幹部が責任を逃れやすくなる。昇進の決定に際し、マネジャーがスポンサーの役割を適切に果たすためには、役職に伴う権力が必要になる。つまり、「昇進が決まる部屋」にいなければならないのだ。そのためにはプロテジェの直属の上司より、さらに上級職のスポンサーを選ぶことが好ましい。
筆者らが一緒に仕事をした別の組織は、最上級の幹部チームから2つ下のレベルで働く女性にスポンサーシップを提供したいと考えた。同社の非業務執行取締役を務める3人の女性が協力を申し出て、CEOはぜひ彼女たちをスポンサーとして迎え入れたいと提案した。
しかし、スポンサーシップ・プログラムの目的を全員で話し合ったところ、社外の人間である彼女たちには、プロテジェのために社内政治の舵取りをしたり、昇進のための後押しをしたりすることができないだろうと気がついた。いずれもスポンサーの重要な役割だ。そこで筆者らは、3人にはメンターとして参加してもらい、スポンサーには社内の人間(この場合は執行委員会のメンバー)がふさわしいと提案した。
このケースは、別の意味で重要な点を強調している。スポンサーはもちろん非常に重要だが、一方で、プロテジェは幅広い多様な支援のネットワークを、同僚や組織の外まで広げることができるし、また広げるべきであって、スポンサーシップがそのようなネットワークの構築をじゃましてはならないのだ。