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ディズニーランドのファストパスをはじめ、実際に並ばなくても順番待ちができる「バーチャル行列」は、レストランやコールセンター、ライドシェアプラットフォームなど、多くの場所で普及してきたが、その流れはコロナ禍でさらに加速している。だが、予想待ち時間が長ければ待ちきれない顧客が離脱する恐れがあり、時間が過ぎても自分の順番にならなければ顧客の不安は高まる。バーチャル行列における顧客体験を最適化するためには、待ち時間をどう知らせればよいのか。企業が実践できる4つの戦術を紹介する。


 1999年、ディズニーランドは「バーチャル行列」の先鞭をつけた。ファストパスを導入したのである。このシステムを使えば、ゲストは順番待ちをしている間に、ほかのアトラクションを楽しむことができる。

 その後、バーチャル行列はレストランやコールセンター、ライドシェアプラットフォームなど、さまざまな場所で普及していった。そして、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、この流れをいっそう加速させた。

 とはいえ、バーチャル行列のすべてが等しくできているわけではない。バーチャル行列のシステムを導入する際に、顧客体験を最適化するために企業ができることは何だろうか。

 当然ながら、許容人数を増やして待ち時間を減らすことが最も簡単な解決法だが、このやり方はとてつもなく費用がかさむことが多い。しかし幸いなことに、許容人数を増やさずに待ち時間を減らすことや、実際の待ち時間を変えずに顧客体験を向上させることができる。

 筆者は過去10年以上にわたり、バーチャル行列で予想待ち時間を知らせることが顧客体験に及ぼす影響について広範な研究を行ってきた。そこから明らかになった、企業が実践できる4つの戦術を以下に紹介しよう。

第1の発見:
予想待ち時間を知らせると
顧客の平均待ち時間が短くなる

 第1の発見は驚くに値しないかもしれないが、バーチャル行列を活用している企業すべてに大きな影響を与えるものである。

 筆者が、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のガド・アロンおよびノースウェスタン大学ケロッグスクール・オブ・マネジメント教授のアチャル・バッサンブーとともに、銀行のコールセンターを対象として行った研究では、予想待ち時間を知らせると顧客全員の平均待ち時間が減ることが明らかになった。その理由は、誰かが行列待ちを諦めるたびに、ほかの人々の待ち時間が短くなったからである。

 通知された予想待ち時間が非常に長いと、顧客によっては列に並ぶのを諦める。だがオフピーク時には、顧客が並ぶのをやめる可能性は低くなる。その結果、サービスを受ける顧客の総数を一定に保ちつつ、平均待ち時間が短縮されたのだ。予想待ち時間を知らせるだけで、企業は待つという顧客体験を向上させられる。

 さらに、ピーク時に混雑するライドシェアアプリやコールセンターの場合には、予想待ち時間を長めに知らせることの有益性が、同研究および我々が行った別の研究から示唆されている。最終的には、待つのを諦める可能性が高い、せっかちな顧客が除外されるからである。

 許容人数に限界があって顧客全員にサービスを提供できないのならば、最初に長めの予想待ち時間を知らせて待ちきれない顧客を諦めさせ、行列を早く進めて、全員の体験を向上させるのがよい。