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リモートワークが常態化する中、経営者はあることを懸念している。それは、トップパフォーマーの優れた知識や経験が共有されないのではないかということだ。筆者らは、組織内で知識共有を効果的に実施する方法を検証した。本稿で示された結果は、リモートチームがそれを行う際にも有効だという。


 IT企業の多くが今後もリモートワークを継続すると発表しているにもかかわらず、JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOのように、従業員をオフィスに戻すリーダーもいる。リモートワークに対する彼らの主な懸念は、従業員同士が知識や経験を共有することの難しさだ。

 多くの企業にとって、そうした共有は貴重で、ベストプラクティスを広め、問題を抱える人が助けを求めることを可能にする。リモートワークだと知識や経験の共有は困難だと思われがちだ。だが筆者らは、リモートチームにより効果的に適用できる可能性がある、共有を促進する方法を発見した。

 筆者らが最近行った研究では、マネジャーがどのようにして従業員間の知識共有を促すことができるかを検証し、それが収益に与える影響を数値化することを目指した。研究は、営業担当者の個別の販売効率データを収集しているインバウンドセールスのコールセンターと提携して実施した。

 研究の動機となったのは、職場におけるすさまじい技術的進歩にもかかわらず、パレートの法則(収益の80%は全従業員のうちの20%が生み出す)がいまなお存在するという事実だ。

 トップパフォーマーがベストプラクティスを編み出したら、その知識を他者と効果的に共有することは可能なのか。もしそれが可能だとしたら、組織的にその共有を妨げるものは何なのか。

 トップパフォーマーの知見がチーム全体に広がらない理由として、もっともらしい主張はいくつかある。

 1つは、営業担当者は情報を共有するという動機を持たない、競争的な生き物であるという考えだ。これに従えば、企業は、知識共有の明確なインセンティブをハイパフォーマーに与える必要がある。

 もう1つは、人間は頼まれれば自分の知識や経験を熱心に共有する社会的な生き物であるというもので、エコノミストのお決まりの主張だ。そうであるなら、何らかの社会的障壁が成績の低い従業員が同僚に助けを求めるのを妨げていると考えられる。

 彼らは自分の弱さを見せたくないか、あるいは自分で仕事を解決したいのかもしれない。いずれにしても、マネジャーは彼らが同僚に助けを求めるよう促す方法を見つける必要がある。

 この2つの主張はどちらもメリットがある可能性があり、その場合、共有するインセンティブと、助けを求めさせる手段の両方が必要だ。

 企業がトップパフォーマーの知識を活用する最適な方法を見つけるため、筆者らは、知識共有の仮説の障壁を識別する検証を行った。

 営業担当者600人以上を無作為にペアにし、ペアを4つの異なるグループに分類。各グループはそれぞれ4週間にわたり、異なる方法でマネジャーからの介入を受けた。指導下でのミーティング、明確なインセンティブ、この2つの同時適用で、残るグループは対照群だ。

 それぞれの介入の方法は仮説の障壁の1つ、あるいは複数の組み合わせを対象とした。収益への有効性を測定するため重要だったのが、多くの従業員が独立しながらも同一のタスクを実行する状況を見つけることと、従業員レベルの細かなパフォーマンスの測定を通して、研究対象であるインバウンドセールスのコールセンターが知識共有を研究するうえで理想的な設定になることを試みた。