
ジェンダー平等の実現は、いまだ未解決の重大な課題だ。男性は組織内で平等が進んでいると認識しているが、女性は至る所でジェンダーバイアスを感じている。男女間の認識ギャップが、この問題が解決に至らない重要な要因となっている。認識ギャップをどうすれば取り除けるのか。筆者らは「スモールウィン(小さな勝利)」戦略の実践を推奨する。本稿では、いますぐ実践できる10のスモールウィンを提示する。
医療・ヘルスケア分野と最新テクノロジーが交差するヘルステクノロジー(ヘルステック)は、医療機器、デジタルヘルスツール、そしてヘルスケアITを提供する成長分野だ。
医療・ヘルスケア分野は、女性が労働者の半数以上を占めるため、トップクラスのジェンダー・ダイバーシティを持つと見られているが、ヘルステックは違う。ジェンダーや人種などのダイバーシティでは、むしろテクノロジー業界に近いようだ。
筆者らが最近、ヘルステックで働く403人を調査したところ、「自分の会社は上級管理職の過半数が男性だ」と答えた人が90%に上った。
スタンフォード大学バイヤーズ・センター・フォー・バイオデザイン(スタンフォード・バイオデザイン)で、ヘルステック分野の未来のリーダーを育成する筆者らは、この分野で平等を推進すべく奮闘してきた。
最新の調査では、問題点がより明確になった。多くの男性は、すでにこの側面で十分な進捗があり、女性は男性と対等の立場とチャンスを享受していると思っている。それに対して多くの女性は、依然としてシステム的な障害が多く、きわめて不平等な職場だと感じているのだ。
調査に参加した女性たちは、ジェンダーバイアスのさまざまなエピソードを教えてくれた。昇進の対象から外されたり、ミーティング中に発言をさえぎられたか無視されたり、技術的な専門性に疑問符を突きつけられたり、攻撃的だとか一緒に仕事をしにくいと言われたりしたというのだ。こうした差別経験は、専門職にある多くの女性に非常によくあることだが、STEM(科学・技術・工学・数学)分野では特にそうだ。
何よりも大きな発見は、調査に参加した男性の多くが、女性同僚が直面する逆境に、ごく限定的にしか気がついていないことだ。たとえば、自分の職場は「女性が実力を最大限に発揮できるようにエンパワーメント」していると考えるのは、男性回答者では80%に上ったが、女性回答者では36%にすぎなかった。
また、昇進の基準は男女とも同じだと考えているのは、男性は84%、女性は35%だった。資金調達の時、自分のプレゼンチームの男性と女性とでは、投資家の扱いが違っていたと感じた女性は50%に達したが、男性では10%にすぎなかった。
男性回答者の多くは、ジェンダー格差が生じているのは、個人の選択の結果だとも考えていた。たとえば、女性が上級管理職に就くのを妨げている理由は何だと思うかという問いに対して、男性の最も一般的な回答は「女性が仕事と家庭のバランスを取りたいから」だった。
これに対して女性たちは、ステレオタイプな見方が存在することや、女性がコミュニケーションや影響力のネットワークから排除されていることなど、組織のシステムの問題点を指摘した。
こうした認識の落差は問題だ。なにしろ、女性が男性と平等なキャリアを築くために奮闘していることが、多くの男性同僚には見えていないのだ。
だが、女性たちの苦労は、彼女たちの成功に現実的な影響をもたらす。報酬や昇進の機会において、ジェンダー差別やジェンダー格差を経験したと回答した女性は、男性よりもはるかに多かった。女性は男性よりも仕事に対する満足度が低く、離職を考える割合は2倍高かった。