曖昧な問題と対峙するうえでは、意思決定のプロセスをひっくり返さなければならない。すなわち問題そのものに注目するのではなく、成功とは何かを定義する必要がある。筆者が「成功のビジョン」と呼ぶものだ。
たとえば、子どもが成功する確率をどうすれば上げられるかを考える親がいるとしよう。典型的な問いは「どうすればいい子に育つか」だ。子どもの発達について調べたり、専門家のアドバイスを聞いたりすれば、不確実性の一部を解消する助けになるかもしれない。
だが、それだけでは問題は解決しない。究極的には、「いい子」の定義が曖昧だからである。成績がいい子どもを意味するのか。家族思いの子どもなのか。チームスポーツに優れている子どもなのか。
その答えを見つけるためにはまず、成功のビジョン(私と家族にとっての「いい子」とは何か)という最終目的地を明確にする必要がある。この方法のよい点は、成功に至る道がわからなくてもかまわないことだ。目的地がはっきりしていれば、そのために何が必要かを見極めやすくなる。また、最終目的地は、あなたの価値観に根差したものになる。これらのすべてが主体性をもたらし、物事をコントロールしている気持ちになれる。
たとえば、10歳前後の子どもが2人いるカロ夫妻を考えてみよう。彼らもやはり、いい子に育てたいと思っている。夫妻にとっての究極の成功とは、気持ちを通じ合うことができて、いろいろな話ができ、一緒に過ごすことを楽しめる家族だ。
ただ、夫妻はどちらも時間的な自由がきかない共働きの夫婦だった。一方、子どもたちは体を動かすことが好きで、チームスポーツを好んでいた。
夫妻が自分たちのビジョンを実現する方法を考えた時、家族として有意義な時間を持てるのは、平日の夕食と週末だけであることに気がついた。ということは、子どもたちを遠征があるスポーツチームに参加させることはできない。こうしたチームは週末の遠征が多いからだ。
そこで夫妻は、子どもたちを地元と学校のスポーツチームに入れることにした。息子のサッカーコーチが、遠征のあるサッカーチームに加わってはどうかと言ってきた時も、ていねいに断った。家族の価値を一番に考えたかったからだ。
慈善団体ピース・ファースト(Peace First)の創設者エリック・ドーソンの例も参考になる。ピース・ファーストは、若者のエンパワーメントを通じて、公正で平和な世界の実現を図る団体であり、世界140カ国で活動している。
2018年、ピース・ファーストはビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成金を獲得し、中東と北アフリカ(MENA地域)に活動を拡大する可能性を探ることになった。この地域の若者が、平和構築に向けた熱意を持っているかどうかはまったくわからなかったが、1年間の調査の結果、その答えは「イエス」であることが判明した。
しかし、助成期間の終盤で、ピース・ファーストは「選択の時」を迎えた。「助成金がなくなった時、MENA地域から段階的に撤退すべきか、小さくプレゼンスを維持すべきか、むしろ拡大すべきか、それとも大々的に展開する賭けをすべきなのか。いずれの選択肢にも無数の問題があり、それが組織の未来を危険にさらす可能性もあった」と、ドーソンは振り返る。
何らかの判断を下すためには、どんな結果を得たいかを考える必要があった。そこで彼らは、団体のミッションに基づいて成功を定義することにした。そして、既存の活動はピース・ファーストの基礎を成すもので、新たな大きなチャンスが訪れても、既存のプロジェクトのじゃまになることはないと判断した。
「すでに確立された140カ国でのプレゼンスとインパクトを維持する」という基本を確認したうえで、MENAプロジェクトを評価してみると、それはピース・ファーストのミッション、インパクト、資金調達ニーズに一致すると判断できたのだ。こうして、MENA地域での活動は継続されることになった。
家族の未来であれ、組織の未来であれ、計画の出発点に価値観を据えると、曖昧性を克服する助けになる。あなたはもしかすると、アイゼンハワーのように、部下の兵士たちを安全な場所に上陸させる計画を練っているのかもしれない。あるいはカロ夫妻のように、気持ちが通じ合う、リラックスした家族の時間を確保したいのかもしれない。あるいはピース・ファーストのように、組織を拡大しようとしているのかもしれない。
いずれの場合であっても、最初の段階で結果を展望することが、そこに至るまでの道のりを見つける助けになるはずだ。
HBR.org原文:When Managing Through Ambiguity, Develop a Clear Vision, November 16, 2020.