●攻撃性や不安感を持ちやすい
睡眠は、気分や感情のコントロールに不可欠な化学反応を脳内に引き起こす。この反応に最も関係が深い脳内ホルモンは、メラトニンと呼ばれる。
メラトニンは、夜間に多量に分泌されて睡眠を促し、朝は目覚めるために分泌量が低下する。気分の変調とも関係があるとされている。メラトニンが分泌されて眠る時間であることを知らされても、無視して起きているような時に起きることが多い。
睡眠不足のせいで、周囲の目にも明らかなほど、機嫌が悪く、怒りっぽく、イライラするのは、メラトニンが脳の扁桃体に影響を与えているからだ。扁桃体は、その人がポジティブな経験をしている(安心している)のか、あるいはネガティブな経験をしている(怒りや恐怖を感じる)のかを判断する感情のレーダーのようなものだと思えばよい。
不安、攻撃性、衝動的な決断はすべて、扁桃体の過活動が引き起こしている。夜間に脳のこの領域に影響を与える変化は、どれも翌朝まで持ち越され、他者に対する忍耐力や共感力を含む、あなたの行動に影響を与える。
恐怖や不安といったネガティブな感情は、怖い夢や不快な夢という形で睡眠中にも出現する。睡眠不足の時にイライラして怒りっぽくなり、さらに質の悪い睡眠によって気分が不安定になり、悪夢という形で睡眠が妨げられるという悪循環に陥る人も多い。
要するに、自分が思いやりのある優しい同僚やパートナー、友人になりたければ、もっと睡眠を取るべきなのだ。
●人間関係を危険に晒す
睡眠不足は、恋愛や人間関係にも害を及ぼす可能性がある。
成人のほとんどは、共同生活者や同居人と同じ寝室で眠っている。こうした条件に当てはまる人は、自分の人生やキャリアだけでなく、パートナーの人生やキャリアにも影響を及ぼしている。
案に違わず、睡眠と人間関係の質との間には相関関係がある。幸せな関係性があればよく眠れ、よく眠ることで関係もよくなる。
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このような研究結果が豊富にあるにもかかわらず、きっと友人や同僚の「寝ていない」自慢は今後も続くだろう。いかにも、それが生産性の向上や成功につながっているかのように。
そうした時は、科学がそれとは逆のことを証明していると思い出そう。長時間にわたって脳を途切ることなく解放すれば、目覚めた時の頭の冴え、幸福感、そして健康が増進するのである。
HBR.org原文:Why You Should Choose Sleep Over Work, September 08, 2020.