リスクの軽減
では、リーダーシップの発揮を妨げるこれらのリスクを人々が克服するために、どのような支援ができるだろうか。前述したリスクを軽減し、あらゆるレベルでリーダーシップを育成するために、マネジャーが積極的に実践できる方法が、以下の3つだ。
1. リスクに敏感な同僚の支援に力を入れる:筆者らのインタビュー調査から、キャリアの早い段階の従業員やチームに参画したばかりの従業員、あるいは組織で地位が低い従業員は、特にリーダーシップのリスクに敏感である可能性が示唆された。
先行研究によれば、仕事でリーダーシップが発揮される多くの状況において、本人のジェンダーやエスニックグループがマイノリティである場合にも、リスクに敏感な傾向があることが示唆されている。
従業員がみずからの立場や属性ゆえに直面する課題を克服するのを手助けするため、マネジャーは機会が生じた場合には積極的に声をかけ、重要な会議やプロジェクトでは誰の目にもわかるように彼らの意見を求め、年齢や職位の高い従業員の前で彼らのリーダーシップの貢献を褒め称えることができる。
2. 対立と、対立についての従業員の認識に対処する:チームで対立が起きることは避けられない。しかし、目の前のタスクや仕事のプロセスに関する意見の相違ではなく、人間関係の対立(性格や価値観の違いによるものなど)に起因する意見の相違を抱えたチームで仕事をしている場合、人々は特にリーダーシップを発揮することのリスクによって意欲を失いやすいことが、筆者らの調査で明らかになった。
そのため、対立が生じた時には、マネジャーはグループ内の具体的な意見の相違に対処し、建設的な対立を個人のスタイルや価値観に対する攻撃としてエスカレートさせるのではなく、意見の相違が仕事に関する範囲に留まるようサポートしなければならない。
対立を人と人との争いとしてではなく、最善のアイデアの模索としてとらえれば、リーダーシップを取ることを避ける可能性は低くなる。
3. リーダーシップを試せる、低リスクの機会を見つける:最後に、キャリアに大きな影響を及ぼす場合、人々はリスクを回避する傾向が高まることが調査で明らかになった。
たとえば、経験の少ないリーダーが、非常に目立つリーダーシップの責任を任された場合、パフォーマンスが悪ければ、今後一緒に仕事をする可能性があり、大きな影響力を持つ同僚との信頼関係が損なわれたり、昇進の機会を失ったりするのではないかと不安になることがある。こうした場合には、リスクの高さがリーダーシップを取ろうとする意欲の妨げになる。
このようなリスクを軽減するため、マネジャーは目立たない日常的なプロジェクトや影響の小さい社内の試験的な取り組みなど、リスクの低い機会を見つけ、潜在的な能力の高い従業員に、より安全な環境でリーダーシップの「実地訓練」をするよう促すことができる。
このアプローチはまた、人々がキャリアへのリスクを懸念せずに、指揮を執るさまざまな方法を試し、何が自分に合っているかを考え、自分のリーダーシップに他者がどう反応するかを確認し、状況に応じて調整することを可能にする。そして、自信をつけ、みずからのリーダーシップスキルを磨くことで、失敗を恐れずにリスクの高い機会に挑戦できるようになるのだ。
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ビジネスの世界では、リーダーシップとその利益の重要性が強調され続けている。だが、リーダーシップを発揮するリスクも認識しなければならない。
組織は、潜在的なリーダーが直面するリスクを認め、そのリスクに対する彼らの認識に対処することで、より多くの人がより多くの場でリーダーシップを発揮できるよう促すことができる。そうすることで、組織と従業員の両方の成長を支えることにつながる。
HBR.org原文:Why Capable People Are Reluctant to Lead, December 17, 2020.