
企業の不正行為が発覚すると、なぜ誰も通報しなかったのか、私たちは疑問に思う。だが、周囲はそれに気づいていたのに通報しなかった理由が、不正を働いた本人に対する思いやりや同情心から来ているとしたら、どうだろう。特に従業員が固い絆で結ばれている職場で、こうした問題が生じやすいと筆者らは指摘する。いまや、シリコンバレーのスタートアップをはじめ、多くの企業が「家族的な職場づくり」を標榜している。だが、組織はそこから得られる利益だけでなく、マイナス面にも目を配り、不正行為の告発を妨げない対策を講じなければならない。
「家族のような職場です」――。企業のウェブサイトによく見られるフレーズであり、こうした組織文化を目指す企業は多い。
たとえば、シリコンバレーのスタートアップ200社以上を対象にしたある研究によれば、創業者たちは意識的に「家族的な雰囲気が強い」「心の絆で固く結ばれている」職場をつくっている。
家族的な雰囲気の職場をつくるべき理由は、いくつもある。
まず、従業員の利益になる。英国の従業員2226人を対象としたある調査では、55%が「伝統と忠誠心によって結ばれた家族的な雰囲気」の企業で働きたいと回答した。
職場に親しい友人がいる従業員は、いない従業員に比べて仕事に対する満足度が高いという調査結果もある。職場における親密な人間関係は、帰属欲求や友情を育みたいという欲求を満たす心理的効果があることが、研究によって示されている。
家族的な職場は、企業側にも恩恵がある。ビジネスの成功は、従業員の集団作業によって成り立つことが多い。新たなアイデアや製品を生み出すこともそうだろう。チームダイナミクスを強化することは、従業員にこうした共通の目的を追求する活力を与えることにつながる。
シリコンバレーの企業は、まさに生産性と企業への忠誠心を高める意図で、親密な組織文化を醸成してきた。その組織文化は、業績向上、離職率の低下、さらには病欠の減少といった金銭的な見返りを企業にもたらしている。