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新型コロナウイルスの感染拡大で最も大きな影響を受けたのは、小売業界だろう。消費者が店舗での買い物を避けるようになり、多くの有名企業が倒産に追い込まれた。その一方で、アマゾン・ドットコムやアリババなど、オンライン・ショッピングを提供する企業は急成長を遂げている。新型コロナは個人消費をどのように変えるのか。伝統企業がコロナ危機を乗り越え、再起を果たすために、何をすべきなのか。ベイン・アンド・カンパニーのパートナーに聞いた。


 2020年の新型コロナウイルス感染症の流行と、それに伴うロックダウン(都市封鎖)がもたらした影響の一つは、数多くの小売企業が破産したことだった。

 米国で破産に追い込まれた小売企業には、ロード・アンド・テイラー(百貨店)、ニーマン・マーカス(百貨店)、ピアワン・インポーツ(家具)、ブルックス・ブラザーズ(アパレル)、スー・ラ・ターブル(キッチン用品)、ギター・センター(楽器)、スタイン・マート(アパレル・アクセサリー)などが含まれる。

 一方、同じ期間に、消費者はオンライン・ショッピングへの依存を強め、アマゾン・ドットコムの株価は1900ドルから3160ドルに上昇した。

 コロナ禍が終焉すれば、小売企業のビジネスが活況を呈するのか。それとも、オンライン・ショッピングで食品を購入する習慣が定着するのか。そして、アマゾンの世界支配を減速させる要因はあるのか。

 2020年の小売業界に起きた変化は、長期的に見てどのような影響を生み出すのか。その点を知るために『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)は、ベイン・アンド・カンパニーのパートナーで、パリを拠点に小売ビジネス部門のグローバルな責任者を務めるマルク=アンドレ・カメルに話を聞いた。

 以下は、そのインタビューの抜粋に編集をほどこしたものである。

HBR(以下太字):2020年によく言われたのは、コロナ禍によって、まったく新しい潮流が生まれたというより、すでに始まっている流れが加速した面が大きい、ということでした。このような指摘は、小売業界にも当てはまるのでしょうか。

カメル(以下略):はい。小売ビジネスの世界では、コロナ禍以前から大激変が起きていました。その背景には、さまざまな要因があります。

 まず、消費者の行動パターンと人口構成が様変わりしました。シングルペアレントの家庭で暮らす人、一人暮らしをする人、都市で生活する人が増えています。これは、20年前からの潮流です。

 加えて、消費者が小売企業に期待する内容も変わり始めています。消費者は、これまで以上の品質、利便性、スピード、選択肢、価値を同時に求めるようになったのです。その結果、小売企業は、経済的に解決不可能な難題を突きつけられた形になります。

 また、既存の状況を根底から突き崩すようなビジネスモデルが出現して、市場は大激変にさらされました。アマゾンやアリババなどの「モンスター・エコシステム」が登場しただけでなく、それぞれのカテゴリーごとに小さな革新者があらわれているのです。

 たとえば、アパレル部門では、衣料品のレンタルや中古衣料品のビジネスが成長しています。これは一つの例にすぎません。

 アマゾンやアリババなど、エコシステムを築いている企業以外では、ほかにどのような小売企業が好ましい立場にありますか。

 巨大エコシステム以外で持続可能な地位を築いている企業には、以下の4つの類型があります。

 第1は、いわば「リージョナル・ジェム(地域の宝石)」とでも呼ぶべきタイプの企業です。地域レベルの市場で好業績を上げている企業のことです。

 この種の企業は、消費者ときわめて強力な結びつきを確立していて、質の高い価値提案を行っています。たとえば、アマゾンの存在感が大きくないポルトガル、スイス、ロシアなどには、強力な小売企業が存在しています。

 いずれは、新しいビジネスモデルを擁する企業による挑戦を受ける時が来るかもしれません。その時、生き延びられるかどうかはわかりません。それでも、いまのところは、これらの企業の戦略は功を奏しています。

 第2の類型は「ヒッチハイカー」です。プラットフォーム企業に乗っかってビジネスを行っている企業のことです。

 この種の企業はたいてい、バーバリーやラコステのように、きわめて創造力旺盛でブランド力の強い小売企業だったり、フランスの小売大手モノプリや英国の小売大手モリソンズのように、成功を収めている食品中心の小売企業だったりします。

 これらの企業は、独力でテクノロジー競争を続けるだけの体力はないので、エコシステムを通じて商品を売り、エコシステムの成長に便乗して自社も成長を遂げようとするのです。

 第3の類型は「バリュー・プレーヤー」。コストの削減と低価格の維持が会社のDNAに浸透しているような企業です。アルディ、トレーダー・ジョーズ、プライマーク、TJマックスなどの企業がこれに該当します。

 第4の類型は「スケール・ファイター」。企業規模が大きく、エコシステムに戦いを挑めるような企業です。米国の小売大手ウォルマートは、その一例です。ただし、同社はみずからもエコシステムになることを目指しているのですが。

 私たちは小売業界の現状について、以上のような見方をしています。ここで挙げた企業のいくつかは、コロナ禍を比較的うまく乗り切ってきました。

 では、好ましい立場にない企業は、どのような状況にありますか。

 そのような企業のことは、「レガシー・ラガード(後れを取った伝統企業)」と呼んでいます。この種の企業は、事業を継続しつつ、会社を変えるという難しい課題に直面しています。これは非常に難しいことです。しかも、コロナ禍により、状況はいっそう厳しくなりました。

 私たちの考えでは、米国と西欧の小売企業の3社に1社以上がこのカテゴリーに該当し、黒字を維持するために悪戦苦闘しています。これらの企業は、市場でのプレッシャーと株主からのプレッシャーの両方にさらされています。こうした状況に陥ると、コストを切り詰めて利益を確保しようとしがちですが、投資を減らせば、業績不振の原因となっている問題がいっそう悪化しかねません。

 このような企業は概して、ほかの会社と統合するか、破綻するかのいずれかの運命をたどります。2020年に破産した有名小売企業の中には、このタイプの企業が少なくありません。米国のロード・アンド・テイラー、JCペニー、ニーマン・マーカス、英国のデベンハムズ(百貨店)やアルカディア(アパレル)などがそうです。

「レガシー・ラガード」は、いま苦境に陥っている小売企業の中で最も目立っているカテゴリーですが、ほかにも苦戦を強いられているカテゴリーがあります。「持続不可能なイノベーター」とでも呼ぶべきタイプの企業です。デジタルの領域で興味深いビジネスを立ち上げたものの、利益を上げる道筋を見出せずにいる企業のことを指します。

 この種の企業は、やがて破綻するか、「スケール・ファイター」に買収されるかになります。「スケール・ファイター」は、このタイプの企業を買収して学ぼうとするのです。ウォルマートに買収されたオンライン・ショッピングのジェット・ドットコムは、その典型です。