ワクチンの接種が進めば、個人消費が強力に回復すると期待する声もあります。コロナ禍の中で、ショッピングに出掛けたいという欲求が鬱積しているはず、という理屈です。このような仮説は、理にかなったものだと思いますか。
この点に関しては、2つの相矛盾するシグナルを見て取れます。1つは、人口動態面の現象です。若いZ世代は、消費に対する姿勢がそれ以前の世代と異なります。誇示的消費をあまり重んじず、持続可能性と意義を大切にする傾向があります。
この傾向は、コロナ禍によりいっそう強まりました。しかも、こうした姿勢はほかの世代にも広がり始めています。この点を考えると、将来的には消費ラッシュが以前ほど見られなくなりそうに思えます。
一方、中国では、これとは矛盾するシグナルが見られます。米国や西欧などよりも早期にロックダウンから脱却した中国では、ロックダウン解除後に小売需要が急増しているのです。それは3~4カ月続き、オフラインよりもオンラインでの購買行動で際立っていました。ショッピングモールに足を運ぶ人の数は、まだ戻り切っていませんが、それでも来店者の購入率は高まっています。
2020年を通して、中国の小売業はプラス成長を遂げたことになりそうです。要するに、ロックダウン後の消費の増加は、ロックダウン期間中の減収を補って余りあったのです。
ロックダウン解除後にとりわけ売れ行き好調なのが、高級ブランドです。売り上げが40~50%増えたブランドもありました。
ただし、中国の消費者は、コロナ禍以前から高級ブランド品の世界最大の購入者でした。その点で、中国の消費者が世界で高級ブランドに使っていた金の一部を国内で使い始めただけと言えなくもありません。その意味で、このデータから何らかの結論を導き出すのは難しい面もあります。
コロナ禍でのロックダウンと買い占めの経験を通じて、食品購入のあり方を改めて考え直した人もいるようです。長い目で見た場合、この変化は食品小売ビジネスにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
食べることに関しては、時間と金のトレードオフの関係があります。コロナ禍以前、自分で料理する人よりも、出来合いの料理で済ませる人が多かった。1食当たりの食費は高くつくのですが、時間の節約になったからです。
外食消費も急速に伸びていました。一部の欧米諸国では、食費の半分以上が食料品店ではなく、レストランやテイクアウト店で使われていました。
こうした潮流は、コロナ禍によりどのくらい変わるのでしょう。これをきっかけに、人々が自分で料理をして家で家族と食事をすることの楽しさを再発見したと指摘する論者もいます。
コロナ禍を通じて、趣味としての料理に目覚めた人は、確かにいるでしょう。けれども、私たちの調査によれば、90%の人は、またレストランで食事をしたいと思っています。欧州で最初にロックダウンが解除された時には、多くの人がレストランに殺到しました。この点を考えると、長い目で見て、食料品店での支出とレストランでの支出の割合が劇的に変わるとは思えません。
一方、オンラインで食品を購入することは、今後も続ける人が多いだろうと思います。そのほうが便利だからです。