作家のガブリエル・ガルシア=マルケスは「すべての人間には、公、私、秘密の3つの生活がある」と書いた。パンデミックやデジタル革命が起きる前は、これらを区別するのは簡単だった。だが、今日のデジタルなWFH環境では、公と私、あるいは企業と個人の境界を完全に定義することはできないかもしれない。
筆者らの経験では、期待の不一致が原因で対立が起きることが少なくない。リモートワークの従業員が、雇用主の優先順位や期待とは異なるプライバシーのレベルを期待している場合などだ。
一般的に、境界に関する倫理的な問題の多くは、境界に近づかれたり、それを越えられたりした時の驚きから生じる。「Xが起きているとは知らなかった」「会社が自宅での私のノートPCの使用状況を監視しているとは知らなかった」というものだ。
対処法の一つは、こうした驚きの要素を取り除くことだ。企業文化は差別化された特徴として認識されるようになり、従業員の信頼と企業の透明性に関する要素からつくられる。従業員の知らないところで行われる監視プログラムは、それらと相容れない。
監視プログラムは、時折発生する不正行為を見つけることはできるかもしれないが、積極的な行動を促したり、企業資産の不適切な使用を抑止したりする効果はほとんどない。
結局のところ、モニタリングをするかどうか、どの程度、どのようなものを導入するかは、事業内容、WFHの方針、企業の規模や予算などを考慮したうえで、企業ごとに選択することになる。
企業がモニタリングを導入するかどうかやその理由について従業員と明確にコミュニケーションを取るなど、バランスのとれたアプローチは、透明性の高い組織文化および信頼関係と合致するものだと筆者らは確信している。さらに、企業の基本的な法的枠組みにも沿っている。米国におけるその枠組みは、正当な利益と通知の概念を前提とし、従業員の同意があればさらに強固になる。
今日の状況は、不確実で前例のないものかもしれないが、古くからある優れたマネジメントの原則の中には、いまなお、そしておそらくこれまで以上に、応用できるものがある。
私たちが目指すべきは、信頼を植え付け、公正さと透明性が広く浸透し、人々がストレスや不安ではなく安全を感じるような倫理にかなった風土をつくることだ。それを達成する手段は新しいものかもしれないが、結局のところ、コミュニケーション、エンゲージメント、ウェルビーイングというパフォーマンスと生産性を向上させるものが鍵であることに変わりはない。
HBR.org原文:If You're Tracking Employee Behavior, Be Transparent About It, December 23, 2020.