世界中の働く人々の多くに共通する、次のシナリオについて考えてみよう。
ある企業は、すべてのノンエッセンシャルワーカーをWFHに移行した。従業員は個人のデバイス、自宅のテクノロジー、ケーブルモデムを使用し、同じように自宅で仕事をする同居人や家族、またはリモートで授業を受けている学生とそれらを共有している可能性がある。
そのため企業はセキュリティ、プライバシー、生産性について、これまで以上に懸念している。自社のデータや機密情報は安全なのか。ハッキングのリスクが高まっていないか。新たなサイバーセキュリティのリスクはないか。従業員はちゃんと働いているのか、それともさぼっているのか。仕事量は増えているのか、減っているのか。
特に従来からプレゼンティイズム(出社重視)の文化がある場合、マネジャーは従業員が何を生産し、提供するかを評価するようになるのか。それとも、マイクロマネジメントをして、リモートワーク中の従業員が何をしているかを執拗に確認せざるを得ないと思うのだろうか。
この会社はセキュリティツールを多用し、一般的に利用できるツールを複数導入している。キーボード操作のモニタリング、スクリーンキャプチャ、メールのモニタリング、VPN接続時に使用された仕事と無関係のプログラムやソフトウェアなどがわかるトラフィック追跡といったものだ。
会社の情報を安全に管理することが主な目的かもしれないが、こうした行動によってマネジャーは、従業員がリモートワーク中に何をしているのかを知ることができるだろう。
従業員側は、それについてどう考えるのか。まず、従業員は監視のレベルが高まっていることに気づいていないかもしれない。多くの人は職場にいる間は観察され、評価され、行動が監視されることを予測しているが、オフィスの外のことについてはそうではない。
従業員は、自宅で仕事をしている時には「より高度な」プライバシーを期待しているかもしれない。従来から自宅は職場と「切り離されている」と見られ、みずからの選択、信念、ライフスタイル、政治的見解、ネットの閲覧履歴は雇用主の手の届かないところにあって、雇用主には無関係だと多くの人が考えている。
ラインマネジャーやリーダーは現在、WFHを奨励あるいは義務化し、社会や企業が混乱する中で信頼関係を強化しようとしている。その一方で、保護とセキュリティの責任を負う企業のコーポレート部門は、リビングルームにいる従業員がネット上で何をしているかを追跡することのできる高度なツールの導入を拡大している。
そして、こうしたことがすべて同時に起きている。はたして、これらの相反する利益と行動は折り合いがつくのだろうか。おそらくそれは可能だろう。そのためには法的枠組みを理解し、倫理規定を見直し、最終的には信頼関係を強化するためのコミュニケーションと期待を共有することが有効だ。
重要な問題は、善意のあるマネジャーが会社の利益を守りつつ、信頼とプライバシーについての従業員の期待を維持するにはどうすべきか、ということだ。この2つは決定的に対立しているだろうか。そうではないはずだ。企業は、相反する優先事項のバランスが取れた、倫理的な監視プログラムを設けることが可能だと、筆者らは考える。