
コロナ禍で在宅勤務が普及する中、仕事とプライベートの境界がますます曖昧になることで、多くの問題が生じている。会社のデバイスを自宅で使用することで、データや機密情報の流出が生じるかもしれないというセキュリティの問題。リモートで働く従業員の生産性をどう管理するかというマネジメントの問題。これらに対処するために、多くの企業がツールを導入してリモートワークのモニタリングを始めているが、そこには法的なだけでなく、倫理的な問題が山積している。本稿では、会社の利益を守りながら、在宅勤務中のプライバシーを尊重することで従業員との信頼関係を維持するために、何を理解しなくてはならないかを論じる。
新型コロナウイルス感染症が流行する前から、有能な上司を際立たせる重要なリーダーシップの資質の一つが、他者の感情を理解し、思いやる「共感力」であることは明らかだった。
コロナ危機下で、共感力はさらに重要になっており、マネジャーは従業員のストレスを軽減してレジリエンスを育むために、彼らの心身のウェルビーイングにいっそう目を向け、個人的な状況にも細心の注意を払う必要がある。
だがこの課題は、対面のやり取りに代わるテクノロジーへの依存で、難しさが増している。テクノロジーを使った対話では、ビデオ会議をしながら共感を示すといった、ぎこちない方法を身につけなければならない。
人間のコミュニケーションは本来感情的なものだが、デジタル環境ではそれがうまく伝わらない。コンピュータの画面に対して感情を抱いたり表現したりすることと、物理的に同じ場所にいる人と対話することは明らかに異なる。
さらに悪いことに、リモートだけで仕事をする従業員を管理することには、倫理的、法的にデリケートな意味合いがあり、それをマネジャーが認識しなかったり見落としたりすることが起きがちだ。在宅勤務(WFH)が普及する前から、仕事とプライベートの境界は非常に曖昧だったが、いまではもっと曖昧になっている。
筆者らの見たところ、従業員の様子を頻繁に確認したり、通常の感情面のウェルビーイングを評価したり、個人的な状況を把握したりするといった行動は、従業員への共感を示すことと彼らのプライバシーを尊重することのバランスを取るのが難しい。
法的ではなく倫理的な事柄もあり、マネジャーは常識があれば十分だと考えてはいけない。たとえば、従来の勤務時間中にリモート会議を行うことに法的な問題はないが、従業員の個人的な事情(子どものケア、居住地のロックダウン、ホームオフィスのスペースの制約や騒音など)を考慮することは、明らかに倫理的なことだ。
WFH環境を支えるテクノロジーに対する、かつてない依存がもたらすデジタルな問題もある(目に見えるものもあれば、見えないものものもあるだろう)。たとえば、ズーム疲れ、新しいツールを習得することのプレッシャー、アナログの会議からバーチャルの会議へのシフトによる生産性の低下などだ。
マネジャーはいま、チームを鼓舞し、結びつけ、理解するといった優れたリーダーシップの要素だけでなく、バーチャルで人々の自宅に入り込みながらリーダーシップを発揮することの法的な意味と倫理的な意味を理解することが、かつてなく求められている。