
女性は男性に比べて、リスクを回避する傾向が高いと言われてきた。だが、筆者らの研究から、ある状況下においては、女性はむしろ積極的にリスクを取ることが明らかになりつつある。これまで、リスクテイキング行動の男女差に関する研究は、投資や買収、レバレッジといった金融分野の量的判断を対象に行われてきた。しかし、投資家に限らず、一般の企業において「社会的リスク」の重要性がますます高まっている。本稿では、財務的リターンのみならず、人間や社会に重要な影響を与える意思決定チームに、女性が加わる意義と実際の効果を論じる。
女性は男性に比べて、概してリスク回避傾向が高い――。少なくとも研究結果や一般通念では、そう示唆されている。たとえば、投資銘柄を選ぶ時、ベンチャーキャピタルに投資する時、そして企業買収をする時、女性はリスクが小さい選択をする。
男性と女性とでは、なぜリスクテイキングに対する欲求が異なるのか。これについては、いくつかの説がある。最も一般的なのは、原始社会において男性は地位を獲得するために戦い、権力の座に着くには競争しなければならなかった。これに対して女性は、人の世話をする役割に就く可能性が高かったというものだ。あるいは、男性は性質的に刺激欲求傾向が高く、リスクも楽しみの一部だという説もある。
だが、現実はそれほど明確ではないという研究結果もある。筆者らの研究もそうだ。社会起業とインパクト投資に関する調査を行ったところ、女性が積極的にリスクを取るかどうかは、状況によって異なることがわかってきた。実際、ある状況下においては、筆者らが「社会リスク」と呼ぶものに関して女性のほうが積極的にリスクを受け入れる場合がある。
これまで、リスクテイキング行動における男女差の研究は、投資や買収、レバレッジなど金融分野の量的判断が対象になってきた。
しかしながら、投資や起業、そしてビジネス全般における重要な意思決定の多くは、誰に賭けるか、どの社会問題に対処するか、あるは相反する利益のバランスをどう取るかが焦点になっている。筆者らが「社会リスク」と呼ぶものだ。すなわち財務的リターンだけでなく、人間あるいは社会に重要な影響を与える決断である。
この仮説を実証するために、筆者らは金融投資と社会的インパクトの両者を伴うインパクト投資について調査を行うことにした。調査対象となるベンチャーフィランソロピーとは、財務的な持続可能性、場合によっては利益も追求しつつ、社会問題に取り組む社会起業家に投資する機関を指す。