●「バットシグナル」を決める

 バットマンのファンなら覚えているはずだが、警察がバットマンを呼ぶ時にはコウモリのマークを夜空に照射する。このバットシグナルは危機発生時にのみ使われる。たとえば、ジョーカーが逃亡した場合は該当するが、法律を軽視する者が駐車違反切符への支払いを怠った時などは含まれない。

 マーシャル・マクルーハンが主張したように、メディア(伝達媒体)はメッセージである。残念ながら大半の組織は、ある問題が本当に緊急事態であることを示すバットシグナルのような手段を持っていない。どの伝達チャネルを使うかについて合意がないまま、従業員は情報を見過ごすことがないよう、あらゆるデジタルメッセージのプラットフォームをチェックしなければならない。

 これが生産性に害を及ぼす。企業は緊急事項とそうでない事項それぞれに用いるチャネルを特定しておけば、従業員の仕事をもっと楽にできるのだ。

 筆者と協働した某医療機器メーカーは、それぞれの状況に応じてどの手段を使うのかを明確にするために、下図のようなコミュニケーションの手順を設けた。

 その効果は目を見張るものであった。社員は緊急事項に際してすべての受信メールをチェックする必要性から解放されたからだ。テキストメッセージと電話以外は気にする必要がないとわかっているため、じゃまが入らない熟考を要する仕事に安心して集中できたのである。

 留意点として、どんなコミュニケーション手段を選ぶかは重要ではなく、ひとえに「システムを持つ」ことが大事である。

 ●責任と権限を一致させる

 従業員は仕事への責任を課されながら、結果を出すために必要な権限を与えられないことがあまりに多い。この不一致が、不満やストレス、過度の負担につながる。

 筆者と協働した年商5億ドルの靴メーカーの例を挙げよう。創業者兼CEOは、かなり前に製品開発の仕事から離れていたが、製品チームがデザインしたある靴のスタイルを気に入らないという結論に至った。

 そこで彼は、40万ドル分の靴を積んで米国に向かっていたコンテナの行き先をアフリカに変え、金銭的損失を生みながら、そこで荷をすべて下ろした。製品開発のトップは士気喪失したうえに、CEOの決定に合わせるために、間際になって調整に奔走させられたのである。

 ここでの原則はシンプルだ。従業員は結果への責任を負っているなら、必要な意思決定を下すための権限も持たなければならない。はてしなく続くメール、会議、プレゼンテーションを強いられることなく、である。

 製造企業のW.L.ゴア&アソシエイツにおける「格子型」のマネジメント構造は、この考え方を取り入れている組織の好例だ。年商30億ドルの同社は、リーダーシップの責任を組織全体に広く分散させている。従業員は「水面より上」の(つまりリスクが低い)意思決定については自律的に下すことができ、「水面下」(高リスク)の意思決定のみ承認が必要とされる。

 ゴアは数十年を費やして、同社独特の組織構造を支えるための文化、システム、プロセスを築き洗練させてきた。したがって、他社がこのモデルを模倣するのは難しいかもしれない。とはいえ、個人と組織の生産性を向上できる考え方として、見習うべき一つの例である。

 個人の生産性を追求することは、健全で有益だ。しかしながら、組織に属さず独立して働いているのでない限り、ほとんどの「テクニック」には限界がある。パフォーマンスに本物の効果を及ぼすには、システムレベルでの取り組みが求められるのだ。


HBR.org原文:Productivity Is About Your Systems, Not Your People, January 05, 2021.