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リーダーは、勝利のために全力を注ぐことが自分の仕事だと考えがちだ。敗北することは、支配権や地位、富が失われることにつながるからである。だが、リーダーこそ「品格を持って負ける方法」を学ぶ必要があると、筆者は指摘する。そのためには、敗北に耐えるだけでなく、変化と成長を促す経験として次につなげる機会だと受け入れることが欠かせない。美しく散ることで、得られる果実が大きくなる可能性さえあるのだ。本稿では、リーダーが潔く負けを認め、新たな勝負に挑むための4つの方法を提示する。


 政治の世界であれ、ビジネスの世界であれ、リーダーが勝つことに全力を注ぐのはもっともなことだ。頂点に立ちたいと思うのは、人間が生まれながらに持つ欲求である。トップに立てば、自分にインパクトを与える力があることを示し、金銭的にも心理的にも見返りが得られるからだ。

 数え切れないほどの経営書が、顧客を勝ち取る方法や勝利するチームの構築法、競争に打ち勝つ方法を説く。負けることは、支配権や体面、地位、仕事、パワー、富を失うことであり、いまも嫌悪される。

 だが、2020年の米大統領選が教えてくれたように、リーダーは品格を持って負ける方法も学ぶ必要がある。

 粘り強さは重要だが、それにも引き際というものがある。社会として、とりわけビジネスの世界では、敗北に耐えるだけでなく、変化と成長を促す経験として受け入れなければならない。また、「負け犬」と思われずに負けることができる職場環境を構築する必要がある。

 リーダーが美しく敗北する方法は4つある。

 ●土俵を変える

 民主党の政治家であり、弁護士であり、投票権保護活動家であるステイシー・エイブラムスについて考えてみたい。

 エイブラムスは2018年のジョージア州知事選に出馬したが、敗北した。次は上院議員や下院議員に挑戦することもできただろう。だが、彼女はみずから出馬せず、有権者登録を増やす地道な活動に全力を注いだ。そうした活動が、同州では2020年大統領選でジョー・バイデンが、上院2議席の決戦投票ではジョン・オソフとラファエロ・ワーノックの民主党候補が勝利することにつながり、連邦政府の勢力図を描き変えることに大きく貢献した。

 エイブラムスは、個人的な承認を追い求めるのではなく、自分のミッションに忠実であることによって、それまでとは違う土俵にみずからを置き、ある意味で個人的な勝利よりもずっと重大な勝利を生み出したのだ。

 ビジネスの世界では、スラック・テクノロジーズが好例だ。

 同社の共同創業者でCEOを務めるスチュワート・バターフィールドと彼のチームは当初、大規模多人数参加型ビデオゲーム「グリッチ」を開発していた。ところが、このプロジェクトが頓挫したため、自分たちが開発した社内コミュニケーションツールをプロダクトとして売り出すことにした。それが「スラック」となって大きな支持を集め、2020年にはセールスフォースに277億ドルで買収されるまでになった。