●目的はゲームを続けること

 いま取り組んでいることが楽しく、パーパスを持って仕事をしていると、「誰が勝ち、誰が負けるか」はさほど気にならなくなる。

 この考え方は、ジェームズ P. カースの「有限ゲーム、無限ゲーム」(finite and infinite games)の定義を見直すと理解しやすい。有限ゲームは誰かが勝てば終わりだが、無限ゲームは永遠に続く。それは、ゲームをすること自体が目的だからだ。

 真にインスピレーションを与えるリーダーは、ミッションに対する意識の高さ、類稀なる組織文化、そして団結力のあるチームを特徴とする無限ゲームを行う。

 2001年にスペインの電力大手イベルドローラのCEOに就任したイグナシオ S. ガランは、早い段階で再生可能エネルギーへの移行を進め、競合企業にもそれを期待した。もちろん、イベルドローラが最速の成長を遂げることが望ましいが、競合企業がイベルドローラの戦略を真似しても構わないと、彼は考えている。そのほうが社会にとって善いことだからだ。

 ガランにとって、環境保護は無限ゲームだ。HBR誌への寄稿でも「気候変動は気候緊急事態となってしまい、我々は誰もが当事者となってこの課題に取り組む必要がある」と書いている。

 ●早い段階での失敗、緩やかな敗北にも前向きになる

 スタートアップの文化が浸透した結果、リスクテイキングや起業家精神の名の下に、早く失敗する、あるいは前進するために失敗することの価値が理解されるようになってきた。いまでは、失敗談を共有し合う公式の集まりもあるくらいだ。

 だが、敗北は苦痛を伴いながら、緩やかに訪れる場合もある。胸が張り裂けそうな思いをするだけでなく、機会費用は山のように積み上がる。

 そうした時は、個人の場合であれ、チームや組織の場合であれ、いら立ちや悲しみなどの感情を処理する時間が必要になる。その時間を確保することで、心理的安全性が高まり、コラボレーションやイノベーション、生産性向上を促し、強力な回復の道が開ける。

 ある研究によれば、悲しみを示すことができるリーダーは、怒るばかりのリーダーよりも優れた結果をもたらすことが多いという。

 ネガティブな感情を認めることは、充実した業績評価にもつながることがある。いついかなる時も、最高の仕事ができなければいけないわけではないと従業員が感じられる職場では、むしろ有意義な会話が増えて、個人としてもプロフェッショナルとしても成長を促す場合があるからだ。