HBR Staff

SNSのようなオンライン・プラットフォームは、私たちの生活を便利かつ豊かなものに変えた。しかし、その使い方を間違えると、現実世界に甚大な悪影響を及ぼすツールでもある。2021年1月に発生した連邦議会議事堂襲撃事件やゲームストップ株騒動は、その一例にすぎない。市民、企業、政府は、この問題にどう対処すべきなのか。マサチューセッツ工科大学のシナン・アラル教授に聞いた。


 2021年1月、匿名投稿サイトのレディット上の人気オンライン掲示板である「r/WallStreetBets」に投稿されたメッセージをきっかけに、業績不振に陥っているコンピュータゲーム販売店チェーンのゲームストップの株価が急騰し、ウォール街のいくつかのヘッジファンドが巨額の損失を被るという出来事があった

 個人投資家が株式市場に激震を走らせたというニュースは、たしかに衝撃的だ。しかし、同じようなことは過去にもあった。今回の出来事は、大勢の人たちがオンライン・プラットフォームを介してコミュニケーションを取り合い、連携するようになったことで大混乱が生じた事件の一つの実例にすぎない。

 最近起きた同様の出来事には、さまざまなタイプのものがある。あまり罪のないもの(たとえば、大勢のティーンエージャーがティックトックを通じて足並みを揃えて行動し、2020年大統領選の選挙戦でドナルド・トランプの政治集会の参加予定者数を実際より多く見せて、トランプ陣営に勘違いさせた一件など)もあれば、もっと悪質なもの(2021年1月にトランプ支持派が右派に人気のあるソーシャルメディアサービスのギャブやパーラーを利用して、連邦議会議事堂占拠を計画・実行した一件など)もある。

 今後も、このような出来事は形を変えて繰り返される。しかも、その頻度は増していくだろう。

 市民、企業、政府が責任感を持って、影響力を増すばかりのオンライン・プラットフォームの力を活用し、それが現実世界に及ぼす影響に対処するには、どうすればよいのか。いま問われているのは、この点だ。

 この問いの答えを知るために、私はマサチューセッツ工科大学のデジタル・エコノミー・イニシアチブの責任者で、The Hype Machine(未訳)の著者であるシナン・アラルに話を聞いた。今回のゲームストップ株騒動は、オンライン・プラットフォーム上の野放図な行動によって深刻な影響が生じるというパターンに、どのように当てはまるのか。

HBR(以下太字):オンライン・プラットフォームに対するコントロールを取り戻すとは、具体的にはどのようなことなのでしょう。

アラル(以下略):ソーシャルメディアが危険を生むケースが増えていることは間違いありません。最近は特に、そのような例が目につきます。けれども、その半面で明るい材料もたくさんあります。そこで、あなたの問いを「どうすれば、ソーシャルメディアの可能性を実現し、危険を避けることができるのか」と読み替えたいと思います。 

 この目的を達するために私たちが活用できる手立ては、4つあります。それは、カネ、コード、規範、法律です。

「カネ」というのは、プラットフォームのビジネスモデルのこと。そのビジネスモデルがユーザーや広告主、投資家の行動のインセンティブを生み出しています。

「コード」というのは、プラットフォームの設計とその土台を成すアルゴリズムのこと。具体的には、ニュースフィードのアルゴリズムや「知り合いかも」を表示するアルゴリズムがこれに該当します。

「規範」というのは、プラットフォームに関わる現実世界での社会的行動のこと。要するに、人々がそのプラットフォームを実際にどのように使っているのかということです。

 そして「法律」には、反トラスト法から通信品位法230条、プライバシー保護のための法律、さらには米国証券取引委員会(SEC)のガイドラインの近代化まで、あらゆる法規制が含まれます。

 オンライン・プラットフォームをより善良なものにし、悪しき側面を弱めることは可能だと、私は考えています。ただし、そのためには、ソーシャルメディアの科学を深く理解し、この4つの手立てを適切に用いる必要があります。