2020年9月に刊行されたあなたの著書では、2021年1月6日の連邦議会議事堂占拠事件のような出来事を予測していました。また、ゲームストップ株騒動のような経済的混乱が起きる可能性も指摘していました。ソーシャルメディアがもたらすおそれのある悪影響について長年考えてきたあなたは、2021年1月に起きた2つの出来事をどのように見ていますか。

 私たちはいま、社会がソーシャルメディアの強大な力にさらされているのをリアルタイムで目撃しているのです。

 このテーマについて研究してきた専門家たちは、とっくの昔からとまでは言わないまでも、しばらく前から、オンライン・プラットフォームがこのような混乱を生み出す可能性を指摘してきました。それに、ソーシャルメディア上の活動が現実世界で民主主義に脅威を及ぼしたり、経済を激しく混乱させたりするのは、これがはじめてではありません。

 ただし、最近の出来事は、きわめて規模が大きく、大々的に報道されて、程度も極めて激しい。その点で、米国社会にとって新しい状況に見えているのです。

 オンライン・プラットフォームが持つ破壊的な力の中で、近未来に最も危険をもたらすものは何だと思いますか。

 私が著書のサブタイトル(「ソーシャルメディアはいかにして、選挙と経済と健康に害を及ぼすのか。そして、私たちはそれにどのように対処すべきか」)に挙げた3つの要素のうちの3番目は、公衆衛生に対する影響でした。この問題は、コロナ禍の今日にとりわけ切実なものだと思います。偽情報の拡散により、ワクチン接種をためらう人が現れ始めているからです。

 ロサンゼルスのドジャー・スタジアムに設けられたワクチン接種会場が、ソーシャルメディア上の偽情報に煽られた反ワクチン派によって一時封鎖される事件がありました。同様のことは、2018年と2019年に麻疹ワクチンに関しても起きました。今後はこのようなことが起きてほしくないと、心から願っています。

 ここにきて、オンライン・プラットフォームがこれまでよりも積極的に自己規制に乗り出しています。ツイッターやフェイスブックなどのプラットフォームは、トランプ前大統領のアカウントを停止しました。ディスコードは「r/WallStreetBets」のチャンネルを公開停止にし、個人投資家向け株式取引プラットフォームのロビンフッドは、ゲームストップ、AMC、ブラックベリーの株式取引を制限しました。このような動きをどう思いますか。

 1月に起きた2つの出来事は、大きな違いもある半面、いずれもコンテンツの監視に関する重要な問いを投げ掛けました。

 歴史を振り返ると、プラットフォームはたいてい、初期はコンテンツに介入しない方針を取るものです。けれども、この1年ほど、世論の圧力が強まってきました。それに伴い、政府による規制の可能性もちらついてきています。

 フェイスブックが反トラスト法違反の疑いで提訴されました。通信品位法230条を改正もしくは廃止すべきだという声もよく聞かれるようになりました。このような圧力が高まっていることに加えて、プラットフォームが実世界で好ましくない行動を後押ししていることを示すデータが次々と報告されています。

 そうした状況でプラットフォーム企業は、コンテンツの監視、自社の規約に違反したアカウントの停止、そして許容される表現とそうでない表現の明確な線引きに積極的に乗り出し始めているのです。

 プラットフォーム企業は、どこに、どのような線引きをしているのでしょう。

 この点は難しい問題です。煎じ詰めれば、これは、言論の自由の対象とすべき表現と有害な表現の違いをどのように考えるのかという問題です。これは政治に関わる表現についても、経済的に関わる表現にも言えることです。

 もちろん、誰がどう見ても許されない表現もあります。たとえば、オンライン・プラットフォームを利用して、ミシガン州知事の拉致と殺害を企てることは許されません。プラットフォーム上で大量殺人をライブ配信することもあってはなりません。この類いのことは明らかに有害であり、監視が許されやすいと言えるでしょう。

 一方、法律上は問題ないものの、有害な結果を生む可能性のあるコミュニケーションの場合、プラットフォーム企業が監視の対象にすることは、はるかに難しくなります。

 では、その判断は誰が下すべきなのでしょうか。プラットフォーム企業が自主規制すべきですか。それとも、政府が規制を設けるべきなのですか。

 ここで注目すべきなのは、ジョー・バイデン大統領が商務長官に指名したジーナ・ライモンドの発言です。ライモンドは、商務省国家電気通信情報局が主導して、通信品位法230条の改正を推進することが望ましいと述べています。けれども、政府機関がこの線引きをするのは好ましくないと、私は考えています。政府機関は、政治任用された人たちが動かしているからです。

 これを行うのに適した機関の一つは、議会です。議会は、米国で最も幅広い層の意見を代弁することができ、熟議に適した機関だからです。そして、もう一つの機関は、裁判所です。裁判所が判例を積み重ねていくことを通じて、線引きを行えばよいのです。