
金融業界ではいま、SPAC(特別買収目的会社)の活用を巡る是非が盛んに議論されている。SPACはIPOを果たしているが事業の実体がないペーパーカンパニーで、未上場企業を買収して早期上場させることだけを目的に設立される。有名投資家が続々と設立に乗り出すなど急速な勢いで資金を調達し、熱狂的な成長を遂げていることは間違いない。しかし、SPACバブルは早々に崩壊の危機に瀕していると筆者は指摘する。本稿では、逆さ合併(リバースマージャー)が歩んだ自滅のプロセスをひも解きながら、SPACの先行きを見通す。
2021年が始まってまだ数カ月だが、早くも2020年を上回る勢いを見せる分野がある。SPAC(特別買収目的会社)だ。米国では今年1月だけで約260億ドルを調達した。これは昨年1年間に248のSPACが調達した830億ドルという記録的な金額の、約3分の1に当たる数字だ。
SPACは、いわゆる「ブランク・チェック・カンパニー」(白紙小切手会社)だ。事業の実体やビジネスプランを持たないシェルカンパニー(ペーパーカンパニー)で、IPOで調達した資金で未上場企業を買収し、早期上場につなげることだけを目的に設立される。
ドナルド・トランプ前米政権で経済担当大統領補佐官を務めたゲイリー・コーン、NBAのスーパースターであったシャキール・オニール、香港の大富豪リチャード・リーなど、名だたる投資家がSPACの「スポンサー」(設立者)になっている。ただし、筆者が最近の論文で指摘しているように、表向きの数字にかかわらず、SPACバブルは間もなく崩壊しそうな兆候を示している。
逆さ合併
SPACは、逆さ合併(リバースマージャー)の一種だ。通常の逆さ合併では、成功している未上場企業が上場済みの空っぽの「シェル」と合併することによって、従来のIPOに必要な書類の作成や厳格な手続きを経ずに株式を公開しやすくなる。
これらのシェルの多くは、かつて事業を行っていた上場企業の残骸や、未上場企業と合併するために設立されたペーパーカンパニーだ。これに対しSPACは、IPOで調達した資金をもとに、合併する未上場のターゲット企業を探す。
批判も多い逆さ合併だが、主に金融市場の傍流で数十年前から行われ、1970年代以降、何回かブームがあった。2000年代半ばにも急増し、IPOの件数を上回った年もあったが、2010年をピークに2011年は激減した。
筆者は共同執筆した論文の中で、逆さ合併のバブルとその崩壊を引き起こした要因を明らかにし、事例から教訓を学んで、論争の多い手法のライフサイクルを一般化しようと試みている。