
企業が新しい製品やサービスを開発した時、特許権や著作権を主張するのは当然の戦略だと信じられている。しかし、所有権を頑なに訴える行為が、自社に損失をもたらしている可能性にも目を向けるべきだ。スペースXやマイクロソフト、ディズニーなどは、あえて所有権を主張しないことが利益をもたらす事実を理解している。本稿では、製品やサービスの所有のあり方をマネジメントする「オーナーシップ・エンジニアリング」を実践するために、3つ戦略を紹介する。
ビジネスの世界では、「所有権」の重要性は火を見るより明らかに思える。新しいものをつくり出した場合は、特許や著作権を取得して、しっかり使用料を徴収すべし、というわけだ。所有権の所在について、曖昧な点を残してはならないとされてきた。
しかし、このような常識は、間違っていることが多い。
世界で有数の賢明な企業は、すでにそのことに気づいている。HBOは、自社の主力製品を盗む行為を容認している。スペースXは、特許を放棄している。エアビーアンドビーは、自治体が民泊ビジネスを合法と判断する前に事業を開始した。
これらの企業は、言ってみれば「オーナーシップ・エンジニアリング」に長けている。製品やサービスの所有のあり方のマネジメントを通じて、価値を生み出すことに成功しているのだ。
しかし、多くの企業は、旧来の意味でのエンジニアリングに莫大な予算を投じ、自社製品のボタンやスイッチの類いに片端から修正を加えてきたが、オーナーシップ・エンジニアリングには目を向けてこなかった。所有のあり方には変更の余地がないと思い込んでいるのである。この見落としは、極めて大きな損失を生み出している。
本稿では、大きな成功を生み出しているにもかかわらず、ほとんど注目されていないオーナーシップ・エンジニアリングの戦略を3つ紹介したい。
これらの戦略は、ビジネススクールでも教えていないし、会社の顧問弁護士も教えてくれない。しかし、ビジネスの世界で所有がどのような機能を果たしているかを知っている人たちは、すでにこれらの戦略を実行して利益を得ている。