
2021年3月に起きたアトランタのマッサージ店連続銃撃事件をはじめ、米国では昨年から、アジア人に対するヘイトクライムが急増している。ブラック・ライブズ・マター運動でダイバーシティと社会正義の実現を誓った企業は、アジア人差別にも声を上げるだろうと期待されていた。しかし、実際の反応にはかなりの差が見られる。その格差はアジア系従業員を落胆させ、仕事を続けることに不安を感じている人も多い。本稿では、企業がこの不正義にどう対応すべきかについて、具体的な行動を提案する。
アトランタのマッサージ店連続銃撃事件と、アジア系に対するヘイトクライムの急増(2020年に約150%増えた)を受け、多くの企業がアジア人差別に断固反対を表明するだろうと、筆者は期待していた。ソーシャルメディアには、#StopAsianHate(#ストップ・アジアン・ヘイト)というハッシュタグがあふれるに違いない――。
筆者が楽観的だったのには理由がある。警察による黒人差別に抗議するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動には、昨年あれほど支持が集まり、多くの企業がダイバーシティと社会的正義への取り組みを誓ったではないか。
しかし、今回、企業の反応はまちまちだった。素晴らしい対応をした企業もある。ハンドメイド商品のマーケットプレイスを運営するエッツィーは、アジア・太平洋諸島系(AAPI)コミュニティに50万ドルを寄付したほか、米国人従業員に対して傍観者介入研修を行った。コカ・コーラはAAPI団体に計1億8500万ドルを寄付した。その一方で、沈黙を守った企業もあった。
こうした状況を、従業員たちはどのように感じたのか。筆者は友人や、友人の友人、知り合い、さらには知り合いの知り合いに声をかけて、アジア系差別の増加に対する勤め先の対応をどう思うかを、ズームで聞いた。回答者の大多数はアジア系米国人で、雇用主がもっと踏み込んだ措置を取ってくれればよかったのに、と考える人が多かった。
ゼービア(プライバシー保護のためインタビュー相手は全員仮名とする)は、ヘルスケア大手に勤めるアジア系米国人だ。彼は広報担当者として、アトランタの銃撃事件を非難し、アジア系コミュニティをサポートするCEOの声明案を作成した。ところがCEOは、会社の業績だけに触れる文書を発表することを選んだ。「私のことに目もくれない人のために、広報の仕事などできない」と衝撃を受けた彼は、転職活動を始めた。
一方、最近、テクノロジー企業に入ったアジア系米国人のウェンディは、雇用主の対応に感銘を受けた。その会社は銃撃事件の前から、アジア系に対するヘイトクライムの増加についてメッセージを発信していた。銃撃事件後は、リンクトインにメッセージを投稿したほか、従業員がオンラインで対話できるフォーラムをつくり、AAPI支援団体に寄付をした。ウェンディは就職活動中に複数の企業から採用通知をもらっていたが、この会社を選んだのは正しかったと確信を持った。
中規模コンサルティング会社のパートナーであるDは、アジア系米国人として、会社のDE&I(多様性、公平性、包摂)活動のリーダーを務めている。Dの会社では、アトランタの銃撃事件後、経営幹部が最善策を検討した結果、社外向けにメッセージを発信するよりも、社内のアウトリーチ活動を充実させたほうが従業員のためになると判断した。上級幹部が全従業員にメッセージを送ったほか、実務部門のマネジャーにメールを送り、苦しんでいるスタッフがいることを知らせた。
たしかに、アジア系の従業員たちは苦しんでいる。テクノロジー企業に勤めるケリーは、外出すると人種的な嫌がらせを受けると言い、祖母の身の安全を心配していた。だが、彼女の雇用主は反アジア系感情の高まりについて、何の声明も出さなかった。「アジア系が罵詈雑言を浴びるケースは増えている」と彼女は言う。「それなのに会社からのサポートはゼロ? 正直言って、いい気分はしない」
一連のインタビューで、企業が取った措置や、従業員たちが会社に取ってほしかった措置を聞いた結果、経営幹部や管理職が取るべきベストプラクティスがいくつか明らかになった。