
組織のダイバーシティを掲げ、その実現を目指して具体的な取り組みを始める企業が増えてきた。実際、女性の経営幹部は増加している。だが、黒人女性がCEOを務める企業はあまりに少ない。こ最高ダイバーシティ責任者を任命したところで、この状況は変わらない。白人男性中心の組織で黒人女性が出世の階段を上るためには、優秀な黒人女性にスポンサーシップを提供することが不可欠である。
米経済界の経営幹部のコミュニティは、フォーチュン500企業のCEOに黒人女性が増えることを待ち続けている。2020年に女性が経営トップにいたのは500社のうちわずか37社。その比率は過去最高の7.4%だったが、黒人女性はいなかった。
黒人女性として初めてフォーチュン500企業のトップに立ったアーシュラ・バーンズは、2016年にゼロックスCEOを退任した。2021年3月15日にウォルグリーンズのCEOに就任したロザリンド・ブリューワーは2人目、5月にTIAAのCEOに就任するサスンダ・ブラウン・ダケットは3人目となる。
この現実を変えるためには、従来のようにダイバーシティの必要性を説いたり、新たに最高ダイバーシティ責任者を任命したりするだけでは不十分だ。より多くの黒人女性が最高責任者のポストに、なかでもCEOに就くことを期待するなら、トップへの明確な道筋を示して、直接的な庇護と支援を提供するスポンサーシップが必要だ。
スポンサーシップとは、自分の社会的資本を使って、「プロテジェ」と呼ばれる庇護対象者のキャリアアップを後押しすることだ。より知られているメンターシップと混同されがちだが、プロセスと影響力の双方で大きく異なる。
女性やマイノリティは、自分を導いて精神的なサポートを提供してくれる、経験豊富なベテランのメンターにつくように助言されることが多い。しかしスポンサーは、メンターであると同時に、それ以上の存在になる。スポンサーはプロテジェに機会を与えることを通じて、周囲からの注目と認知度を高めて経験を積ませる。
メンターシップは個人間で行われることもあるが、スポンサーシップは明確に目に見える形で行われる。スポンサーは自分の後継候補として、プロテジェの実績と正統性を保証する。そして、プロテジェの成功は自身にも返ってくる。
男性エグゼクティブの成功にとって、スポンサーシップが強力な要因になることは実証されいてる。スティーブ・ジョブズとティム・クック、ジャック・ウェルチとジェフリー・イメルト、ルイス・ガースナーとケネス・シュノールトを思い出してほしい。
企業が、特にリーダーシップに関してダイバーシティを重視するという数多くの誓いを実行するつもりがあるなら、スポンサーシップはキャリアのモビリティ(可動性)と最高ランクへの昇進を促進する「秘伝のソース」だ。
カマラ・ハリスが米副大統領に就任したことは、近年の最も顕著な例にほかならない。ジョー・バイデン米大統領は、非常にわかりやすい形で自分の地位と名声と影響力を利用して、ハリスを国家のナンバーツーに引き上げた。
特に重要なのは、この決断がバイデンにも返ってきたことだ。有色人種の女性として初めて副大統領に就任することになったハリスへのスポンサーシップは、大統領候補としてのバイデンの展望を大きく開いた。世論調査によると、ハリスは副大統領候補の中で最も好感度が高かった。真のスポンサーシップは、社会的交換と相互利益を生み出す。
米ビジネス界において、黒人女性の上級エグゼクティブをめぐるスポンサーシップの現状はどうなっているのか。
筆者は1年に及ぶ研究プロジェクトでこの点に注目して、米国に拠点を置く企業でCEOや社長の1~2階級下にいる黒人女性のスポンサーシップと成功を予測する要因を、白人男性と比較して明らかにしようと試みた。そこで見えてきたことは、リーダーの立場にある黒人女性の経験を物語り、リーダーシップのダイバーシティを実現するためのヒントになる。