即興の3タイプ
このデータからまず、即興スキルには「模倣型」と「反応型」、そして「創発型」の3つのタイプあることを特定した。
模倣型の即興は、最も経験の浅いプレーヤーの間で見られた。より経験を積んだプレーヤーの対応を観察し、ほぼそのまま真似るというものである。
たとえば、新人プレーヤーの演じるキャラクターが初めて集会に出る場面で勝手がわからなかった彼は、自分より経験を積んだプレーヤーを見て、そのスタイルに近づくように咄嗟にコスチュームとメイクを手直しした。これは即興の最も単純なタイプであるが、限られた経験しかない初心者が仲間に加わろうとする時の出発点として有効だ。
筆者らが見つけた次のタイプは、反応型の即興である。予想外の状況に対して、環境や他のプレーヤーから得られた情報を駆使しながら、独自の方法で対応する。他のプレーヤーの行動を手本にとして頼ることはない。
たとえば、敵の攻撃に遭い、要塞を守らなければならなくなった時に、プレーヤーはその脅威への対抗手段として自発的に兵を動かし、常に守備体制を変化させるというように、味方と敵の双方の行動に対してそれまで見たことのない対応に出た。
このタイプの即興は一般的に、すでに模倣型の即興をマスターしたプレーヤーが身につけていた。なぜなら、誰もやっていない独自のアクションは、みずからが経験を積んだ先に生まれるからである。
最後に、筆者らが観察した最も高度な即興は、創発型の即興であった。創発型の即興は先を読み、何かが起きてから反応するのではなく、何が起きるかを予想し、さらには自分の行動によって未来を変えることを目指して新たな物事を積極的に試みる。
創発型の即興は基本的に推測に基づくため、本質的に最もリスクが高い。だが同時に、他にはない斬新なアイデアが生まれる可能性が最も高いのも事実だ。
一例を挙げると、2人のプレーヤーがその先に起きるかもしれない問題を回避するために、あえて危険なミッションに挑むことで強力なアイテムを手に入れようと咄嗟に判断した時があった。特にその判断のきっかけとなる出来事が周囲で発生したわけではなかったのに、である。
重要なことだが、この2人のプレーヤーはグループの中で一目置かれ、信頼されていた。そのため、他のプレーヤーはその新たな思いつきを無視したり、阻止したりしようとはせずに、しっかりと支持し、グループの作戦に積極的に組み入れた。
このことは、創発型の即興には他のタイプの即興よりも、プレーヤー間の高い信頼関係が必要であることを示している。それがあることによって、即興を行う側は失敗するかもしれないアイデアでも自信を持って実行でき、周囲もそのアイデアを高い確率で受け入れるからだ。
それだけの信頼を得るまでは困難もあるかもしれないが、一定レベルに達すれば好循環を生むことができる。グループの中で強固な人間関係が構築されることで、アイデアが快く受け入れられ、それによってさらに信頼が増し、新たなアイデアを次々と提案できるようになる。
即興スキルの向上には
協力と競争の両者が必要
即興の3タイプを特定した筆者らは次に、それぞれのスキルがどのように向上していくかを調査した。2年間にわたる観察データとインタビュー内容に基づき、それぞれの参加者の即興スキルがどのように上達したか、その軌跡を細かくチャート化した。
その結果、これらのスキルがどう上達するか、あるいはしないかは、そのプレーヤーが競争志向か協力志向か、その度合いに大きく依存することが明らかになった。
具体的には、競争志向の場合は一般的に、反応型の即興を習得するのが早い。なぜならば、できる限り多くの情報に反応するからである。それは他のプレーヤーに何も残さないレベルであり、他のキャラクターの山場をつくるために用意された仕掛けまで、ことごとく横取りした。このアプローチでは、短期的には優位に立てるものの、他のプレーヤーに敬遠され、長期的には創発型の即興スキルを上達させる妨げになる傾向が高い。
一方、協力志向の場合は、周囲に新たな仕掛けが現れた時、みずからチャンスに飛びつくのではなく、その場は他のプレーヤーにまかせようとすることが多いため、反応型の即興スキルの上達には比較的時間がかかる傾向がある。協力を重視する姿勢は、最初のうちこそスキルを上達させる妨げになるが、最終的には創発型の即興スキルの修得に欠かせない社会的な絆を得て、相互信頼のある環境を築く助けになる。
これは意外なことではないだろうが、即興スキルの向上には競争と協力の両者が不可欠であり、適切なタイミングで適切なアプローチを取ることが必要であることを示している。初めのうちは競争志向が強く、経験を積むことで協力志向に傾いた場合、最も早く模倣型から創発型の即興へ移行する。
最も重要な点としては、筆者らの研究が実証する通り、これらのスキルは現時点でどのレベルにいるかにかかわらず、常に向上させることが可能である。