では、どのようにすれば、これらを職場に応用できるだろうか。筆者らは今回の研究結果から、即興スキルを高めたいと考えるマネジャーや従業員のために3つのアドバイスを導き出した。
(1)即興のタイプによる上達方法の違いを認識する
最初のステップとして、即興スキルのタイプと競争志向か協力志向かの違いがスキルの上達に影響することを、自分自身もチームも理解することが不可欠だ。
スキルの違いをきちんと認識することは、チームの編成にも役立つ。新人には必ず経験者とペアを組ませ、模倣型の即興スキルを学ばせる。また、チームの配属にも役立つだろう。優れた即興スキルを持つチームや個人を特定し、不確実性が高く、構造化されていないプロジェクトを担当させるのがよい。
(2)協力と競争のバランスを図る
筆者らの研究結果は、健全な組織に求められる協力と競争の別のあり方を示している。マネジャーはこのバランスを慎重に保ち、野心的な新人の闘争本能を抑え込むことなく、協力スキルを高めるよう従業員を後押しする必要があるだろう。
協力の重視は、最終的には創発型の即興スキルを向上させるために必要だが、旺盛な競争心なしでは、先々の成長の素地として必要な反応型の即興スキルの向上に従業員が苦労する可能性がある。
(3)社会構造を醸成する
最後に、強固な社会構造をつくる重要性はどれだけ強調しても、しすぎることはない。リモートワーク環境ではなおさらだ。
マネジャーは、従業員の間に創発型の即興スキルを育むために、社会的相互作用が豊富で心理的安全性が確保された環境をつくり、信頼と協力の醸成に努めなければならない。そうすることによって従業員は、相手の小さな手掛かりからインスピレーションを得ることができ、否定されるのを過度に恐れることなく、互いに協力して新たなアイデアを生み出すことができる。
当然のことながら、このような環境を維持するのは最も順調な時でさえ難しいが、バーチャル環境ではさらに困難になる。対面でのやり取りが限られている現在、マネジャーはチームメンバー間の社会的な結びつきを強固にするために、よりいっそうの注意を払い、公式・非公式の仕組みをサポートすべきである。
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どの企業も、予期せぬ状況であっても即座に決断を下し、与えられた道から外れて実験できるマネジャーと従業員を、かつてないほど必要としている。リーダーはもはや、即興スキルの向上を運に任せている余裕はない。ましてや、即興力を天賦の才能として、努力しても身につかないと諦めている場合でもない。
そうではなく、リーダーはすべてのチームメンバーに対して、この必要不可欠なスキルの習得を奨励し、協力と競争の健全なバランスを促進し、即興に必要な強い社会構造を醸成する環境を積極的につくらねばならない。LARPの現場であっても職場であっても、それは同じである。