技術革新の潮流に、リモートワーク化などの流れが加わり、営業のあり方に変革が必要になっています。その向かうべき方向性を、DHBR最新号は多面的に分析しました。


 営業力の強い企業といえば、リクルートです。特集では最初に、同社の組織力の源泉は何かについて、社長の北村吉弘氏にインタビューしました。

 中核にあるのは、創業時から継承されている「個の尊重」という原則です。社員に自由と裁量を与え、みずから設定した高い目標の達成を促し、個々人の成長を実現して、組織の強さにつなげる。その考え方と仕組み、企業文化を探りました。

 特集2番目の論文「優れたトップ営業の条件」は、法人(B2B)ビジネスでの、経営者による営業のあるべき姿を論じます。筆者らは冒頭、経営者はみずからの力量を誤解して部下の努力を台無しすることが多いと警告し、地道な調査に基づいて、トップ営業を5つのタイプに分類します。それぞれの手法、成果とリスクなどを分析し、状況に応じた効果的な方法を示します。

 特集3番目は、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)ビジネスで先頭を行くマイクロソフトの事例から、営業変革を提言します。商品販売からサービス販売に事業を変革する際、企業は「何を、誰に、どう売るか」の再考が必要です。具体的には、戦略、顧客基盤、営業組織を再構築し、営業担当者の顧客アプローチを最適化する手法を見直さなければならない、と言います。

 コロナ禍などの環境変化は、顧客の購買プロセスに大きく影響を与えます。そうした事実を直視し、営業を適応させる方法を論じるのが4番目の論文です。営業モデルは担当者の暗黙知の積み重ねでつくられがちですが、論文では経営陣が関与し、組織として戦略的に修正すべきだとして、その方法を解説します。

 日本企業は全般に、新興国企業に追い上げられ、趨勢的に低収益化しています。その状況を打破するうえで参考になるのが、特集5番目で取り上げた医療機器メーカーのシスメックスです。

 血球計数検査分野で世界トップシェア、営業利益率約20%、連結売上高を20年ほどで10倍にも成長させた方法論を、社長の家次恒氏に聞きました。競争力の源泉は販売体制にあり、ユーザーの声を社員が直接聞き、ニーズに応え、顧客満足を高めるところにあるようです。

 巻頭論文は、対論形式です。最近議論の多い株主と経営の関係について、経営思想の巨匠ロジャー・マーティン氏が新説を唱え、ハーバード・ロースクール教授のルシアン・ベブチャック氏が真っ向から反論し、読み応えがあります。

 また、名著の再発掘コーナー「HBR Classics」を新設しました。今回は「フィランソロピーの競争戦略」。筆者のマイケル・ポーター氏とマーク・クラマー氏は、この論考をのちにCSV(共通価値の創造)へと発展させ、今日のESG投資の論拠につながっていきます。