(1)対象者は誰か

 筆者らの研究によると、マインドフルネスはサーフェス・アクティングをする必要が比較的少ない従業員には非常に役に立つが、効率よく仕事をするために日常的にサーフェス・アクティングをしなければならない従業員(たとえばウェイターや販売員)にはそれほど恩恵がなく、弊害をもたらす場合さえある。

 そのような従業員も状況によってはマインドフルネス研修から恩恵を得ることができるかもしれないが、さまざまな職務の従業員に対する画一的なアプローチを採用すると、うまくいかない可能性が高い。画一的なアプローチを取る代わりに、組織は従業員の職務別に異なるプログラムを用意する最良の方法を慎重に検討すべきである。

(2)最適なタイミングはいつか

 多くの組織が1日を通して、マインドフルネス休憩を設けるようになってきている。効果的であることが多いものの、マインドフルネスを通してサーフェス・アクティングをしているという認識がさらに高まれば、かえって不利益をこうむる従業員もいるだろう。たとえば、1日中何らかのサーフェス・アクティングをすることが必要な職務に就いている、カスタマーサービス担当のような人たちだ。

 従業員が生産性と仕事への満足度を下げることなく、マインドフルネスの恩恵をフルに享受できるようにするには、1日の終わりに行うマインドフルネス休憩が効果を発揮する可能性がある(基本的に、仕事上のストレスをリアルタイムに思い出させる代わりに、心地よい気分を回復することが目的となる)。

 マインドフルネスによる介入を行う最適なタイミングを、従業員それぞれのワークフローに基づいて考慮すると、このようなプログラムのインパクトはいっそう強くなる。

(3)意図的に気をそらす必要はないか

 マインドフルネスは、高レベルのサーフェス・アクティングを必要とする状況では業績を下げるおそれがあるため、そのような場合はあまりマインドフルでないほうが、少なくとも短期的には役立つかもしれない。

 マインドフルネスの効果を減じる一つの方法は、気をそらすことである。つまり、自分の心をいまの不快な感情から意図的にそらすテクニックを使うのだ。

 この種のテクニックはしばしば、不安症やパニック発作など広範にわたる不快な経験に対処しようとしている人々に臨床医が勧めるものだ。永続的な解決策として推奨されることはけっしてなく、常にストレスの根本的原因に対処するための長期的アプローチとともに実践されるべきだが、その人が苦痛と感じることから一時的に距離を取る方法としては効果的かもしれない。

 したがって、マインドフルネスを職場に浸透させようとする時には、フィジェットトイ(落ち着かない時に触る小さな玩具)や落書き用ノート、単純なパズルなど健康的に気をそらせるものを用意して、不快な感覚を助長しかねないサーフェス・アクティングが職務の一部になっている従業員に提供してもよいだろう。

(4)ディープ・アクティングの効果はあるか

 サーフェス・アクティングが不快感を誘発しがちなのは、自分の本当の気持ちと一致しない感情を見せることに、かなりの努力を要するからである。

 それとは対照的に「ディープ・アクティング」(深層演技)、すなわち自分の組織のニーズに合わせて自分の気持ちを実際に変えることが、仕事に対する満足度やウェルビーイングに悪影響を及ぼすことなく、必要な感情を出すための効果的な戦術になりうると、研究で示されている

 たとえば、不快で疲労を伴う仕事をする必要がある看護師は、患者の体験に目を向けたり、患者が感じているであろう痛みや恐れを想像したりして、フラストレーションを感じる代わりに思いやりを育む。笑顔を取り繕う代わりにこのアプローチを取ると、従業員が真の意味でよりポジティブな気持ちになる(したがって、その気持ちを心底から見せる)のを助けるかもしれない。

 このような感情労働が頻繁に求められる職務に就く従業員にとって、ディープ・アクティングを勧める研修プログラムと一緒にマインドフルネス・プログラムを受講できれば、いっそう効果的かもしれない。

 マインドフルネスは、マネジメントの道具箱の中に入っている重要なツールの一つである。だが、万能薬ではない。

 職場でマインドフルネスを取り入れるのは、一見したよりも複雑であることが多いことを先行研究が示している。筆者らの最新の研究は、実際にマインドフルネスが業績を下げるおそれもあることも示している。

 さらに、筆者らの研究は高レベルのサーフェス・アクティングを必要とする職に就く従業員に注目しているものの、実はこのような職務は、組織が従業員に「必要悪」を要求する数ある職務の一つにすぎない。売上げが下がったという悪い知らせの伝達であれ、痛みを伴う医療処置の推薦であれ、レイオフであれ、やらなければならない職務がマインドフルになったせいで、いっそう不快かつ困難に感じるようになる可能性は高い。

 もちろん適切な意思決定を確実に下すためには、一定レベルの認識は不可欠だ。また、職場で絶えず不満やストレスを感じるなら、別のキャリアパスを考え始める時が来ているのかもしれない。しかしそれと同時に、強いネガティブな感情を過度に認識すると大きなダメージを被るおそれがある。

 簡単な答えはないが、明らかなことが一つある。マインドフルネスを浸透させるアプローチに関して、組織がマインドレスでいられる余裕はないということだ。むしろマインドフルネスの研修から最大の効果を上げるためには、その長所と短所の両方を積極的に考慮し、従業員の具体的なニーズや職務要件に沿うよう、介入方法を変えていく必要がある。


HBR.org原文:Where Mindfulness Falls Short, March 18, 2021.