いったい、なぜなのか。マインドフルネスは効率を上げ、より意識的に行動するための一助となる。同時に、それまで無視してきた不快な気分をより明確に認識するきっかけにもなり、それが居心地の悪さや、時に害をもたらすのだ。

 たとえば、マインドフルネスはたばこがまずいということを気づかせてくれるため、喫煙者がたばこを吸う頻度を減らすのに利用できる。これは、より大きな目的である禁煙に役立つので、たいていの場合、マインドフルネスは実質的にポジティブに作用する。ただし、マインドフルネスのせいで、たばこをいつも以上にまずいと感じる可能性は高くなる(マインドフルネスがネガティブな感覚を高めるからだ)。

 同様の理論は、職場で感じる不快感にも当てはまるだろう。不快な作業をしている間のマインドフルネスは、自分のネガティブな感情に関する認識を高める。

 自分の仕事に目的意識をもたらすようなジョブ・クラフティングで最善を尽くすことはできるものの、いかなる仕事にも心地よくない部分はある。そのような状況にある時にマインドフルであることは、仕事の好ましくない面に対する認識が高まるだけで、何の解決策ももたらさない。

 具体例を挙げると、筆者らが調査した従業員たちは、「サーフェス・アクティング」(表層演技)として知られる、一種の感情労働を求められる職務に就いていた。サーフェス・アクティングとは、職務を遂行するために自分の真の感情を隠すことである。

 これは目新しい現象ではない。たとえば、ある有名な民族誌学者が、1991年にディズニーランドのアトラクションのオペレーターたちの生活を研究したところ、人を楽しませるのが得意そうな企業で働いていても、その従業員たちはアトラクションと同じくロボットのような状態に陥ることがしばしばあり、内心どう感じているかに関係なく笑顔が貼りついていることを発見した。

 同じように、販売員は怒っている顧客をどんなに無礼だと感じても、顧客には落ち着いて人当たりよく接する必要があるだろう。

 サーフェス・アクティングは、接客に携わる多くの職務(加えて、程度の差はあれ、組織内外の利害関係者とのやり取りが必要なすべての職務)に不可欠だ。笑顔を取り繕うのが正しい選択となるような状況は多々ある。

 しかし、紛い物の感情を見せるには労力が必要であり、心地悪くなることが多い。そのため、多くの人々は仕事をやり遂げるための本能的な対処メカニズムとして、よりマインドレスなアプローチを取る。

 マインドフルになると、(おそらく無意識のうちに)抑制を続けてきた不快な感情があらわになる。そして、自分を偽っていることと、自分がネガティブな感情を持っていることを新たに認識すると、本来なら仕事に必要な精神的リソースがそちらに吸い取られてしまい、それが原因で仕事に対する満足度や業績が下がるのだ。

 誤解してはいけない。筆者らの研究結果は、サーフェス・アクティングを多く必要とする職務に就いている従業員に対して、マインドフルネスの研修はけっして行わないほうがよい、などということを示しているわけではない。

 筆者らの研究で問題点こそ明らかになったものの、先行研究ではマインドフルネスを実践することで数多くの重要な恩恵が得られることが示されている。ただし、マインドフルネスから最大の価値を引き出しつつ、マイナス面を最小化するために、リーダーはマインドフルネスによる介入を実行するに当たり、次のような戦略的な問いを考慮すべきである。