Illustration by Veronica Cerri

あなたは自分の業界だけで通じる専門用語を、どれくらい使っているだろうか。いわゆる「ジャーゴン」(内輪で通じる用語)を効果的に用いると、コミュニケーションを効率化したり、相手との結びつきを深めたりすることができる。一方で、使い方を間違えると怪しい人物だと見なされ、信頼を失うおそれがある。事実、自分の価値を実際以上に大きく見せたい人は、専門用語を多用することが判明した。本稿では、ジャーゴンの悪影響を防ぐための4つのステップを紹介する。


 戦略的な競争優位性を相乗的に高めるために、あるいは最先端の技術を導入して小売チャネルの仲介業者を省こうという時に、現代の組織においてジャーゴン(内輪で通じる用語)は欠かせない。しかし一方で、これほど多くの人を悩ませるものはない。

 いわゆる隠語は余計だ、上っ面だ、気取っている、理解しにくいと、人々は批判したがる。組織研究ではジャーゴンを使って、職場の「くだらないこと」に関する従業員の認識を測る。産業界政府のリーダーはジャーゴンを批判して、規制を試みる時さえある。

 しかし、こうした不満にもかかわらず、大半の職業でジャーゴンが飛び交っている。コンサルタント、看護師、トラック運転手、図書館司書など、多くの職場で、あなたもかなりの数のジャーゴンを耳にして使っているだろう。これほど嫌われているのに、なぜこれほど広く使われるのだろうか。

 この疑問に答えるために、まず「ジャーゴン」を定義しよう。ジャーゴンとは、特定の業界や専門家グループに固有の用語、表現、頭字語のことだ。業界にはそれぞれジャーゴンがあり、もっとわかりやすくて、あまり専門的ではない用語の代わりに使われる。

 ファッションのように流行に左右されやすく、季節によって変化するものもある(「think outside the box」〈既成の枠組みにとらわれない〉が決まり文句になると、「cutting edge」が「bleeding edge」〈最先端〉になった)。また、比喩や言葉のあや、頭字語、目的を変えた用語なども含まれる(「a 30,000-foot view」〈上空3万フィートからの視点〉、「EOD」〈デフォルト事由〉、「disrupt」〈破壊〉など)。

 ジャーゴンとスラング(俗語)は、ほぼ同じ意味で使われる時もあるが、同じではない。スラングは非公式なもので、より社交的な場面で使われる。もっとも、話し手が言っている内容だけでなく、話し手自身に関する情報も伝えるという点で、スラングとジャーゴンは似ているだろう。

 ジャーゴンが職場で盛んに使われるのは、いくつかの基本的なニーズを満たすからだ。文脈によっては、効率的で正確なコミュニケーションを生み出す。航空管制官が文字ではなくアルファベットで会話するのが、まさにそれだ(飛行機のテイルナンバー〈航空機登録記号〉は「AB12」ではなく「Alpha Bravo(アルファ・ブラボ)12」と読む)。

 話し手と聞き手の共通のアイデンティティを強化することによって、社会的な結びつきを促進することもできる。たとえば、グーグルでは入社時の研修で「googly」(グーグリー)と呼ばれる社内の用語を覚えさせる。

 ジャーゴンはさらに、意識的にも無意識的にも、専門的なコミュニティの一員であることを示す言語ツールにもなる。たとえば、「ペン」ではなく「インクスティック」と呼ぶ人は、現在あるいはかつて米軍に所属していたことを示唆しているかもしれない。