今回の研究で、筆者らはジャーゴンを使う別の動機を検証した。すなわち不安と、職業上のステータスへの欲求だ。ステータスは、それを持つ人に影響力や物質的な恩恵、心理的な幸福をもたらす一方で、ステータスがないと不幸に対して傷つきやすいことが、研究からわかっている

 人は往々にして、実際より高いステータスがあるかのように示唆することによって、その欠如を補おうとする。そのために自分の業績を目立たせようとしたり、権威あるグループの一員であることを強調したりする。

 たとえば、ステータスの低い学者は高い学者に比べて、メールの署名に「Dr.」や「PhD」を入れることが多い。複数の実験によると、自分のステータスに不安を感じている人は、ステータスの高さが目に見える消費財には金をかけて、誰も見ないようなものには金をかけない傾向がある。

 筆者らはこうした研究をもとに、職業上のステータスが低いことが、職場でジャーゴンをより多く使う動機になるかどうかを考察した。それぞれの職業にステータスの高い人と低い人がいるので、社会経済的なステータスではなく、職業上のステータスに注目した。

 そして一連の調査から、ジャーゴンは、華やかな肩書きや、飾り棚のトロフィー、あるいは高価なブランドの腕時計のような機能を果たすことがわかった。つまり、人は自分のステータスを表現して誇示するために、ジャーゴンを使うのだ。

 調査の一つでは、MBAの学生に、ベンチャーキャピタルからの資金獲得を目指してコンペに参加する起業家になったつもりで回答させた。彼らは自分の会社を売り込むために、2つのピッチ(投資家へのプレゼン)のどちらかを選ぶ。いずれも伝える情報は同じだが、一方のピッチにはビジネスのジャーゴン(「レバレッジ」「競争優位性」「ディスインターミディエーション」など)が数多く盛り込まれていた。

 回答者には、成功しているMBA卒業生(ステータスの条件は回答者のほうが低い)、ほかのMBA学生(ステータスの条件は同じ)、学部生(ステータスの条件は回答者のほうが高い)のいずれかと競争すると伝えた。その結果、全体として、自分のステータスが低い人のほうが、ジャーゴンの多いピッチを使う傾向が有意に高かった。

 その理由を理解するために、別の参加者グループに学術的なジャーゴンを使ったシナリオを用意した。彼らは学会に参加している研究者のつもりになって、職業上のステータスが高い、あるいは低いという設定のもと、聴衆に向けてプレゼンテーションを行う。ここでも各人がコミュニケーションの取り方を選択し、その理由を説明させた。

 その結果、ステータスが低い設定の参加者はここでもジャーゴンを多く使うことを好み、理由として、他人によく見られたいという気持ちを強調した。一方でステータスが高い設定の参加者は、効果的なコミュニケーションだと明確に理解されることを重視していた。つまり、ステータスの低い参加者がジャーゴンを多用したのは、自分が他人からどのように評価されるかを気にするからだ。

 続いて、現実社会でもステータスの低さがジャーゴンを使う頻度を予測できるかどうかを検証した。U.S.ニューズ・アンド・ワールドレポートの大学ランキングをもとに米国のトップ200の大学について、ステータスの低い大学の学生が、学術的なジャーゴンをより多く使うかどうかを調べた。

 6万4000本以上の論文を集め、タイトルに使われているジャーゴンに注目。学術的なジャーゴンを数量的に測るために、言語の複雑さ(「読みやすさ」)と使われている略語の数を調べた。

 その結果、論文のテーマや長さなどを考慮しても、実験で得られた考察と同様に、ステータスの低い大学の論文著者はステータスの高い大学の著者に比べて、平均してより多くのジャーゴンをタイトルに使っていた。