このようにジャーゴンは、コミュニケーションの改善やグループの結束、メンバーシップの顕示など多くの有益な効果がある一方で、代償を伴う場合もある。たとえば、グループの外部の人にとってコミュニケーションが難しくなり、離反を招きかねない。実際、プロフェッショナルのグループと顧客のコミュニケーションの促進を専門的に担う業界や職能も存在する。

 ジャーゴンは疎外感を生みやすい。無意味に聞こえたり、くだらないと言われることもある。筆者らが現在行っている追跡調査では、ジャーゴンが話し手の印象を損ないかねないこともわかってきた。聞き手はジャーゴンを多用する話し手のことを、陰謀を企ている、人を操っている、好感が持てないと見なすことが多い。

 ジャーゴンが自分や組織に悪い影響を及ぼすのではないかと思う人は、次の4つのステップを考えてみよう。

 ●ジャーゴンの罠を認識する

 ジャーゴンが役に立つのか、それとも悪影響をもたらすのかを知るためには、まず文脈を理解しなければならない。信頼性と形式が重視される場面では、ジャーゴンは有益かもしれない。たとえば、セールスの際にジャーゴンを使うと、専門家だという信頼感を顧客に与えることもできるだろう。

 一方で、幅広い人の理解と関心を得ることが重要な場面では、ジャーゴンを使いすぎるとコストが高くつくかもしれない。聞き手の中に業界や職能、経験レベルが異なる人々が混在していると、誤解を招くリスクは高くなる。

 どのような場面でどのようなジャーゴンを使うとコストがかさむのかを、まず理解しなければならない。

 ●自分でチェックする

 同じアイデアをもっと簡潔に伝えられないか、聞き手がふだんから同じジャーゴンを使っているか、自分でチェックする。

 筆者らの研究が示唆するように、理解されることの重要性を明確に注意喚起すると、ジャーゴンの使用を減らすことができる。明文化された価値観の中に、「不要なジャーゴンを使わない」「コミュニケーションは明確に」といった宣言を取り入れている例もある。

 少なくとも最初のうちは、ジャーゴンとジャーゴンではない表現を併用することによって、自分の専門性を示しつつ、聞き手にメッセージを確実に理解してもらうことができる。

 ●トップから始める

 社内の過剰なジャーゴンを減らしたいなら、組織のトップのコミュニケーションから減らしていこう。ステータスの低い専門職がジャーゴンを使うのは、ジャーゴンをステータスと結びつけているからであり、この連想を断ち切ることが肝心だ。エグゼクティブが明瞭な言葉を使ってコミュニケーションを取ることによって、その流れが生まれるだろう。

 特に社内のイベントで前例をつくると、日常のコミュニケーション規範に影響を与えることができる。新入社員向けの説明会と研修は、望ましいコミュニケーション規範を強調する機会になる。ただし、企業文化のほかの側面と同じように、言語の規範を変えるには時間がかかることを忘れてはならない。

 ●メッセージを広める

 筆者らが実験的に証明してきたことは、多くの人が疑問を感じていたことでもあるだろう。ジャーゴンを使うのは、コミュニケーションのためだけではなく、自分をアピールするためでもあるのだ。ジャーゴンを使うと人を操っているように見えて、好感度が下がることも、追跡調査からわかっている。

 あなたやあなたの組織がジャーゴンを過剰に使わない理由を説明することは、自分の能力に自信があって、誇示することではなく理解されることを意識しているという明確なメッセージになる。

 ウォーレン・バフェットは、株主総会でこのテクニックを頻繁に使っている。彼は、ビジネスに積極的でない2人の姉妹が理解できるようなコミュニケーションを心がけていると、株主に強調する。理解されるためにコミュニケーションを取っていることを聞き手に訴える戦略は、あなたやあなたの組織に対する信頼をさらに高めるだろう。

 職業上のステータスを気にする話し手は、「説明」ではなく「解明」と、「使用」ではなく「活用」と言いがちだ。しかし、明確なコミュニケーションの文化を育んで、あなたやあなたの組織にとって不要なジャーゴンのコストを減らすことができる。


HBR.org原文:Does Your Office Have a Jargon Problem? March 19, 2021.