ダイヤモンド社が主催したオンラインフォーラム「未来を問い直すパーパス経営の実践」において、アクセンチュア マネジング・ディレクターの宮尾大志氏は、「パーパスがドライブする企業変革」と題する講演を行った。アクセンチュアの算定によれば、社会・環境課題の解決に伴い新たに創出され得る市場規模は2030年に世界で5.1兆ドルに達する。この巨大な市場でキープレイヤーとなるには、パーパスによって企業変革をドライブしていく必要がある。テクノロジーの活用や外部との共創によるパーパス経営の進め方を解説した、宮尾氏の講演内容を紹介する。
公明正大な企業運営に向けた
ルールメイキング競争が加速している
宮尾氏は、企業が世の中の価値観やビジネス環境の変化に向き合ってパーパス(存在意義)を再定義、再構築し、変革に挑む「パーパス経営」について、①現状認識(パーパス経営がいま、なぜ求められているか)、②パーパスの役割、③パーパス経営をどう進めていくか、の3点にテーマを絞って解説した。
まず、「パーパス経営がなぜ求められるのか」については、「消費者、従業員、投資家など、いずれの視点でも、企業に対する公明正大さの要求は強まっている」と指摘。とくにジェネレーションZ、ジェネレーションYと呼ばれる若い世代はその傾向が強く、「10年後にはこれらの世代が人口の約7割を占めることを考えると、パーパス経営は今後ますます重要になる」との見通しを語った。
公明正大さの追求に向けて、国家やグローバル企業間でステークホルダーを巻き込んだ社会変革のためのルール形成が進んでいることも、パーパス経営に取り組まざるを得ない環境をつくり出している。

アクセンチュア マネジング・ディレクター
製造・流通本部 消費財・サービスグループ日本統括 兼
ビジネス コンサルティング本部 消費財・サービスグループ日本統括
三井物産を経て、アクセンチュアに入社。消費財業界を中心に、全社・事業戦略、デジタルトランスフォーメーション、グローバルオペレーティングモデル構築、システム刷新の支援等多数のプロジェクトを担当。経済産業省「始動 Next Innovator(グローバル起業家等育成プログラム)」メンターおよび講師を歴任
「2020年のダボス会議では、『企業は顧客、従業員、地域社会、そして株主など、あらゆる利害関係者の役に立つ存在であるべきだ』とする『ダボス・マニフェスト2020』が発表され、ステークホルダー資本主義の重要性が改めて打ち出された。グローバル大企業やGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)も、コンプライアンスやリスク回避、機会追求などの動機を伴ってサステナビリティ経営の主導権を握ろうとしており、日本でも温室効果ガス排出量の多い食品業界、輸送業界が削減に向けた業界ルールを策定している。こうした動きは今後、ますます加速していくだろう」(宮尾氏)
ほかにも、国内企業による社会変革のためのルールづくりの動きとして、自治体と連携したサントリーホールディングスによるペットボトル資源の循環利用、同業他社を巻き込んだ味の素による持続可能な共同配送プロジェクトの立ち上げ(*)など、個社の枠を超えたルールメイキングの動きが活発化している。
一方、パーパス経営を妨げる要因の一つとして、宮尾氏はいわゆる“岩盤規制”の存在を挙げた。世界銀行が各国の規制の観点から事業環境の質を評価した「Doing Business 2020」によると、日本の事業環境の質はOECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中17位と低く、岩盤規制の影響の大きさがうかがえる。
しかし、宮尾氏は「その分、日本には事業環境の質を向上させる余地が大きい」と前向きにとらえることを提言。デジタル技術などを積極活用すれば岩盤規制は乗り越えられる可能性があると語り、その一例として“持続可能な医療”をパーパスとする医療スタートアップ、サスメドの取り組みを紹介した。
「医薬品の治験では、データ改ざんの懸念から人が直接確認する作業が義務付けられているが、サスメドはブロックチェーン技術により、データ改ざん不可能な治験スキームを実現した。規制があるからといって変革を躊躇するのではなく、それを乗り越えてパーパスに基づく経営を実践することが求められている」