“競争”を前提とする「市場探索型」から、
価値を“共創”する「市場創出型」へ

 続いて宮尾氏は、そもそも「パーパスの役割とは何か」という根源的なテーマについて語った。

 宮尾氏によると、企業のパーパスには、自社の理念を規定し、社会の中で果たす自社の役割を起点とする「理念型パーパス」と、自社が取り組む社会課題やつくりたい未来を起点とする「変革型パーパス」の2つがある。

 たとえば、大手日用品メーカーのライオンが「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」という理念を掲げ、社会の中で自社が果たすべき役割を起点にしているのに対して、ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを定義し、つくりたい未来を起点として製品・サービスやビジネスモデルをどのように変革すべきなのかという演繹的なアプローチを取っている。

「伝統的な日本企業は『理念型』、社会課題解決を視座に設立された組織体やテクノロジーベンチャーは『変革型』を選ぶケースが多い。いずれにしても、パーパスの役割は会社として『何を大切にしているか』『何を成し遂げたいのか』ということを明確にし、社内外から共感を得ることだ」

 ピーター・ドラッカーは、「今日成功を収めている企業も、かつては『未来がどうあるべきかという構想』に基づいて行動した小さな一企業であった」「“経済や市場、知識がどのように変化すれば”当社が望む方法で、しかも最大の経済効果を上げうる方法で事業が可能になるのか、という問いが成功の根底にある」と語っている。

 宮尾氏はこれを受けて、「アプローチはさまざまでも、パーパス経営に共通するのは、あるべき未来、つくりたい未来の絵姿をデザインすることだ」と指摘した。

 そのうえで、かつて「広く誰もが買える大衆製品」の提供という目標を掲げ、トランジスタラジオを開発したソニーや、EV(電気自動車)、小型ロボットなどの新たな市場の創出に向けて大型先行投資を継続している日本電産、“あなたの未来を強くする”というメッセージのもと、保険以外の領域にもビジネスを広げている住友生命保険の事例を挙げた。

 アクセンチュアの算定によると、企業による社会・環境問題の解決、すなわちパーパス経営の実践によって創出される新たな市場の規模は、2030年に先進国全体で5.1兆ドルに達する見通しで、これは先進国のGDP成長の約半分を占める規模だ。

 だからこそ、「パーパス経営を実践すると、企業の価値提供領域が大きく広がる」と宮尾氏。たとえば、従来のビジネスでは、「儲かる市場はどこか」「どこなら競合に勝てるか」という評価に基づいた「市場探索型」のアプローチが主であったが、パーパス経営においては、「パーパスを実現するために挑むべき市場はどこか」が評価基準となる。

 当然ながら、既存の経営資源だけではカバーし切れない領域を含む可能性が高くなるが、それを補うため「どのパートナーと共創するか」ということが重要になってくる。したがって、「同じキョウソウでも、“競争”を前提とする『市場探索型』から、“共創”によって新しい価値をつくり上げていく『市場創出型』を目指すことが、従来の経営とパーパス経営との大きな違い」となるのである。