
パンデミックの終息宣言には時期尚早だが、ワクチンの大規模接種や経済活動の再開を通じて、変化の兆しに期待を寄せる向きもあるだろう。ポストコロナに向かう過渡期のいまこそ、コロナ禍という外的要因で失ったコントロール感を取り戻し、自身の手でキャリアを再構築する絶好の機会だ。そのためには、今回の危機で大きな影響を受けた仕事の3つの側面について、戦略的なアプローチを取ることが欠かせない。本稿では、コロナ後の新しい常態をとらえ、いち早く行動することで、新たな機会を手にするための方法を説く。
この1年間、私たちは皆、「ニューノーマル」に向けて準備すべきだと言われてきた。だが、それが何を意味し、いつ始まるかは明確でない。
コロナ禍で、ヘルスケアや子どもの世話という予期せぬ問題に対処するため、キャリアの希望を後回しにせざるをえなかった人もいただろう。そうでなくとも、企業や業界の不振といった予想もつかない外的要因によって、苦労して手にしたキャリアの停滞を感じた人も多かったはずだ。
新型コロナウイルス感染症の終息を宣言するのは、明らかに時期尚早だ。しかし、ワクチンの大規模接種を経て、少なくとも一部の国や地域で経済活動が再開し始めるにつれ、私たちは変化の兆しに希望を抱き続けている。
いまこそ、いかにして自分のキャリアをコントロールする力を取り戻すかを考える好機だ(実際、筆者らの調査では、日和見的なマインドセットが起業家の資質を支える基本的特性の一つであることが明らかになっている)。
オフィスや職業的アイデンティティのハイブリッド化が進む中、私たちは、社会科学者が「境界的」(liminal)な瞬間と呼ぶものに身を置くようになった。すなわち、それまでの日常から抜け出して別のあり方に遷移する、時として不快感を伴う過渡期に身を置いている。そうした状況においては、不確実性が生じるが、一方で機会も生み出される。
筆者らは、仕事の3つの主要な側面がコロナ禍によって大きな影響を受けたと考えている。いずれも、思慮深く戦略的にアプローチすれば、将来に向けてキャリアを再構築する役に立つ。
●働き方
特定の働き方への適応を余儀なくされたこの1年、私たちは誰もが、自分にとって最善の働き方は何であるかを学んだ。コロナ禍は、他に類を見ない実験だったと言えよう。自分の仕事で力を発揮するには何が必要で、どう働くのが最も自分の性格に合っているかを理解する機会となった。
リモートワーク環境で実力を発揮し、元に戻りたくない人もいれば、同僚との交流を恋しく思い、孤独感にさいなまれ、オフィス生活が自分に合っていたことに気づいた人もいる。コロナ禍によって、バーチャルな働き方の実現可能性は確実に実証された。そして一度、その特権(かつてリモートワークはそのように見られていた)を与えた後に、それを奪うのは非常に難しい。
メタ分析研究では以前から、リモートワークは「ほとんどの場合、有益である」(生産性や仕事の満足度だけでなく、家族関係を改善する)、あるいは「有益でも有害でもない」ことが示されてきた。技術的リソースの充実と「働く場所より、成果の重視」を受け入れる文化的レディネスのおかげで、今後さらに有益性が高まることが期待できる。
このことはつまり、この先多くの職業で、勤務条件をみずから選択し、場合によってはコントロールできる自由度がはるかに高まることが期待されるのだ。
筆者の一人であるクラークは、刊行予定の著書The Long Gameの中で、ある企業のHR担当エグゼクティブ、アンマリー・ニールの例を紹介している。ニールは25年以上前から(コロナ禍よりずっと以前のことだ)、その時々の雇用主を説得して、コロラドの山間の小さな町で暮らしながら、仕事をしている。
「貴社が求めているのは、そのポジションに最適な人材ですか。それとも、貴社の近くに住み、オフィスに通える中で最適な人材ですか」と、彼女は尋ねるという。ポストコロナに向けて、さらに多くの人々が同じ質問をする立場になるだろう。